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COCET通信        第7号 (2003.1.10)
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目   次

巻頭言 A New Standard           長岡高専 若尾彰子

<特別寄稿>
英語教育とJABEE               四ツ柳隆夫
                      (宮城高専校長・国専協会長)

特集COCET第26回東京大会
第26回東京大会開催される          長野高専 小澤志朗
                      (COCET会長)
COCET大会に参加して             岐阜高専 柴田純子
コセットに至るまでの6年間         鳥羽商船 鏡ますみ

まだまだ少ない高専女性教官         富山高専 青山晶子

英語科紹介
「長岡工業高等専門学校 英語科」      長岡高専 高橋美智子

事務局より

編集後記

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巻頭言   A New Standard       長岡高専 若尾彰子
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 コセット会員の皆様、二十一世紀になって3回目の新年を迎えました。新世紀
になってから、各高専では独立法人化、JABEE対応に向けて、これまでの教育シ
ステムを見直す機会が多くなったことと思います。そこで、今回特別寄稿として、
宮城高専校長であり国専協会長でもある四ツ柳隆夫先生から、これからの高専英
語教育に対する貴重な提言をしていただきました。
 そして、今回さらに欲張ってもうひとつのテーマを設けました。それは「女性
からみたCOCET/高専」です。そのため執筆者の多くは女性です。女性教官が日頃
何を考えているのか知っていただければ幸いです。
 私は高専に勤めて7年目になりますが、初めの3、4年はよく同僚と夜遅くま
で学校に残って仕事をしていました。あの頃は、自分が女であることで不自由を
感じたことは殆どありませんでした。幼い頃から「男みたい」とよく言われてい
たので、男子学生を前にしても戸惑うことはなかったですし、同僚にも恵まれの
びのびと仕事ができました。なにより以前勤めていたOL時代から考えると「女だ
から」という場面がほとんどなく、天国のように感じました。
 ところが、妊娠して出産した途端、様子が少し変わりました。私の高専で教官
の出産が初めてだったせいか、いくつか体制が整っておらず、妊娠や育児で思う
ようにならない体で、色々交渉していかなければなりませんでした。そのなかで
「女性を雇ったのは英語科だから、妊娠・出産でできない授業以外の仕事の埋め
合わせも英語科でするべき」などと会議で発言された時は、さすがに女性である
ことに誇りを持てなくなりました。何気なくポロッと口から出てしまったのは分
かっています。私も男性だったら、心の中で同じことを思ったのかもしれません。
 恵まれた環境にあっても、男性が圧倒的に多いというだけで、なかなか女性の
立場が理解されないことがあるのです。そして、これを契機に、同じような環境
にいる高専の女子学生を見つめ直しました。彼女達たちは自身の女性性とエンジ
ニアというキャリアをどう両立させるのか?
 今の日本では、女性がキャリアを持とうとする時、「男性並」に働いている限
り、あまり問題は起こらないのです。しかし、そうするには、女性は何かを失う
可能性があります。それは、個人や職場によって異なりますが、女性らしさ、子
供を持つことや結婚、介護、あるいは健康です。同じ女性でも、母親や親戚に支
えられて、男性と同じように働くことができる人もいます。しかし、それは単に
他の「女性」の力を借りて「男性」workerを作り出しているだけにすぎないので
す。
 私は、高専が「男性並」に働くことができる優秀な女性エンジニアを育てる場
ではないことを願います。女性と男性が協調しながら優れた技術を磨き発展させ
ていくことができる、そういう社会を担う人材を育てる場であって欲しいと願っ
ています。
 我々は、今ある枠組みを「見直す」時期に来ているのではないでしょうか?エ
ンジニアリング界の男性スタンダードの仕組みを少し見直すことをしてみません
か?これから数年の間に、高専はめまぐるしく変わろうとしています。そして、
新しいスタンダードが出来上がろうとしています。しかし、その過程で少しでも
女性の声が反映されるでしょうか?私は、エンジニアになる夢を持って高専に志
願してくる女子学生の期待に少しでも応えるよう、「女性」として何かできない
か模索しています。


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~特別寄稿~ 
英語教育とJABEE         宮城高専校長 四ツ柳隆夫
国専協会長、JABEE基準試行委員
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1.JABEEについて
 先ず、表記のテーマの原点を確認しておきたい。国際化の時代を迎えて、技術
者の活躍の舞台は全世界にまたがったものとなってきた。このため、各国とも大
学等の行う技術者教育の質を保証し、輩出される技術者の資格を国際的に相互承
認する必要性が生じてきた。日本技術者教育認定機構(Japanese Accreditation
Board for Engineering Education)は、このような目的で設立された。その略称
名であるJABEEという言葉が、技術者教育に携わるものの間に広がり、日常語に
なった感がある。
 JABEEの当面の目標は、国内の教育機関の認定(Accreditation)を実施して技
術者教育の発展的向上を図ると共に、その実績をふまえて、米国、英国、カナダ、
オーストラリア等で構成されるワシントン・アコードと呼ばれる国際的な相互承
認協定に加盟することにある。

2.JABEE基準と認定:Accreditationについて
 この認定方法は、技術者となる学生個人を認定するのではなく教育機関を認定
し、その機関が修了を認定した技術者に国家資格(修習技術者;技術士の1次試
験を免除される)を付与する方式を採っている。従って、教育機関は、学生の身
につけた能力、“Outcomes”、を精査し、この資格を認定する義務を負うことに
なる。
 このJABEE基準1 学習・教育目標(1)自立した技術者に必要な学習・教育
目標の中に、(f)日本語による論理的な記述力、口頭発表力、討議などのコミ
ュニケーション能力及び国際的に通用するコミュニケーション基礎能力がある。
国際的に活躍する技術者のコミュニケーション能力には、当然のこととして国際
語である英語の基礎的な能力が不可欠である。
 また、同(3)学習・教育目標が社会の要求や学生の要望を考慮して決定され
ていること、への対応の項の中に、国際的な活動ができる人材の育成に関する事
項が含まれており、そのキャンパスの教育環境が国際的な資質を育むものとなっ
ていることが求められている。この面でも英語教育はその基盤を担うものである。
 JABEEには40を超えるチェック項目があるが、そのどれか一つにでも欠陥
(Deficiency)ありと判定されると、その教育機関は認定されないルールになっ
ている。従って、英語の能力と共に、英語教育自体も、他の項目と並んで絶対的
な必要条件となっている。

3.英語教育とTOEICについて
 最近の技術者に対するアンケートでも、英語によるコミュニケーション能力を
もつことが望ましいとするものが80%にも達したのに対し、満足できる能力を持
っていると回答したものは10%に過ぎないことが分かった。コミュニケーション
能力の状況がここまで来ても、一向に有効な手が打てない我が国の語学教育環境
には何か問題が潜んでいる。その根本的な問題を調べて、対策を立てなければな
らない。「日常的に英語が必要でない状態の中では無理だ」とか、色々なことが
いわれているが、それを超えて解決する必要が生じている。 特に、高専では!
さて、その一方で最近、70万部を超えるベストセラーになった英語の本のタイト
ルに「英語を勉強してはならない」というのがある。「普通の勉強のセンスで、
何とかしようと取り組むこと自体が誤りだ」とする趣旨である。著者の国である
韓国と日本における英語学習の難しさに対する共通的な悩みが取り上げられてお
り、学習の方法論としての実践を伴った一家言がある。
 また、英語の能力を表現する方法として、最近の話題の中にTOEICがあり、膨
大な量の本が店頭に並んでいる。これに関しても、種々の意見がある。確かに、
TOEICのテストは、英語能力のある一面に過ぎないことは、その通りであろう。
 しかし、TOEICは、英語能力のある面の反映であり、国際的に共通な比較基盤
を構成している点で、揺るがない指標価値をもっている。このようなわけで、
JABEEの審査においても、あるレベルのTOEIC得点をもって能力の証明とすること
が行われている。では、いかほどの点数が目標かと問われたとき、JABEEとして
の規定化された数値基準はない。JABEEの基準の多くは、一般社会の要求に対す
る対応を求めている。TOEICの場合も、その時点での社会の平均的水準を目安と
した判断がなされている。
 JABEEは、決してTOEICだけが信頼できる能力指標をもっている、と考えている
わけではない。実際の交渉ごとの場面でのコミュニケーションの能力の証明がで
きれば、それがベストである。JABEEの評価が、学生個々人の能力を対象とする
ものではなく、機関としての教育能力を、教育の“Outcomes”として問うている
ことは重要である。その際の“Outcomes”としての学生集団の能力を証明すると
いう点では、多様な研修や共同研究などの場を通してのコミュ二ケーションの状
況を、音声と共に録画した資料は、優れた実証力を持っている。

4.おわりに
 高専で英語教育に携わる先生方は、英語教育の手法とコンピュータ関連の支援
ソフトと機器類の進歩を考慮に入れて、「日常的に英語が必要でない状態の中で
は無理だ」といわれる壁をブレークスルーして頂きたい。そして、技術者を目指
す若い学生たちに適する、学ぶ楽しみを感じながら実力をつけていく教育方法を
創造して頂きたい。これを心からお願いし、その達成にエールを送りたい。

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特集 COCET第26回東京大会
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第26回東京大会開催される       長野高専  小澤志朗
                         (COCET会長)

 今年の研究大会は、東京代々木のオリンピック記念青少年センターを会場に
8月24日(土)~26日(日)に開催いたしました。例年どおり国立高等専門学校協
会からの後援を受けました。参加者は賛助会員を含めると90名でした。

〈理事会を経て、総会で決まった項目。詳細は論集をご参照ください〉
1.人事(理事)について
2.顧問および特別会員のあり方について
3.来年度の運営組織について
  会 長:小寺光雄先生(福井)
  副会長:青山晶子先生(富山)、平岡禎一先生(詫間電波)
  他の理事、会計監査は変わりません。(掲載省略いたしました。)
  幹事は会長校(福井高専)の英語科先生方。
4.COCETのロゴマークについて
5.COCET通信の再録、印刷について
6.COCETメーリングリストの利用促進について
7.COCETの中でのSpecial Interest Group(課題中心の
  プロジェクトチーム)の立ち上げについて

<特別講演>
 上智大学教授 吉田研作先生による、英語によるご講演で、演題「Need for
EFL Standards for Teaching English in Japan」を拝聴いたしました。
 先生は、EFLとしての日本の英語教育と、アメリカなどで行われているESLをそ
れぞれFish Bowl、Open Seasと呼び、鮮やかで説得力に溢れるアナロジーを展開
されました。そして、そのなかでの望ましい授業の形態についてさまざまなお話
をされました。
 普段それとなく感じているものに、はっきりとした形が与えられ、興味深く示
唆に富んだお話をお聞きすることができました。迫力を感じたお話でした。

<研究発表>
 本大会では、14の発表がありました。例年同様幅広く、多様なテーマの発表
でした。発表の中でもCOCET内での新しい共同研究の提案などがあり、活発なも
のになりました。

<フォーラム>
 フォーラムでは、昨年度行われた科研費の補助を得た共同研究『高等専門学校
における英語教育の現状と課題 ―新しい高専英語教育を目指して―』に基づい
た討議と、JABEEについての情報交換が行われました。関心の高い話題で、盛り
上がりました。
 全体を通して見ると、非常に活気のある大会だったように思われます。
最後に、数は多くありませんが、未加盟校の先生方もぜひご加入くださることを
お願い申し上げます。また、来年度の大会にもぜひ大勢の皆様のご参加をお願い
申し上げます

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COCET 大会に参加して      岐阜高専  柴田純子
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 岐阜高専の柴田です。この夏、2度目の COCET 研究大会参加をさせて頂きま
した。2日間の日程を通じて強く印象づけられたことは、どの学会にもない、非
常に暖かい雰囲気でした。時に、学会発表というものは、発表の欠点をいかに指
摘するかという方向に向かいがちなものですが、COCET での、それぞれの持つ教
育、研究の資源を共有し、高専英語教育の向上のために協力していこうという姿
勢に感銘を受けました。その象徴的な出来事として挙げられるのが、岐阜高専の
亀山先生がご発表の中で提案された、高専生の為の語彙教材のプロジェクトでし
ょう。質疑応答のわずか10分の間に、いつの間にか「話がまとまり」、1週間の
うちには、プロジェクトが始動、既に多くの協力者のもとに多くのデータが集ま
っていると伺っています。学会だけでなく、例えば、「学校の冷水機を修理する
か撤去するか」といった問題まで、各人の利害の対立をぶつからせ、延々と会議
を続けてしまうことが多い学校での生活の中、このフットワークの軽さは、貴重
であると思いました。
 このことは、会員の方々の良い人間関係に起因していると思われます。懇親会
で、とても仲の良い職場の同僚のようにテーブルを囲んでいる皆さんが、実は、
普段は何百キロも離れた高専に勤務されており、会うのは年に数回だけというこ
とをお聞きして驚いたことを記憶しています。私の勤務校に女性英語教官が他に
いないため、青山先生、若尾先生との話の輪に入れて頂いたことも非常に楽しい
思い出になりました。同僚のほとんどが男性、学生もほとんどが男性、家でも夫
は男性、今日一日女の人と1回も話をしなかった!ということの多い私の生活で
すが、受け入れざるを得ない現実として、意識の隅に追いやっていたことに、両
先生とのお話を通して気付かされました(唯一、意識したのは、産休という理由
で、1回決まった科研がナシになった時でしょうか…産休が「4か月」重なって
いるという理由で「研究廃止」=「0円」になったときは大変ショックでした)。
 さて、現在、岐阜高専では、TOEIC の3年次全員義務受験が3年目を迎え、現
在、事前指導や団体受験の準備に追われています。平成15年度の大会で、皆様
とお会いできることを楽しみにしています。

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COCETまでの六年間        鳥羽商船高専 鏡 ますみ
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 8月24日・25日に開催されたCOCET第26回研究大会で、「ブリトマートの困惑」
というタイトルで『妖精の女王』の一節について発表しました。研究発表の他、
多くの先生方とお会いでき有意義な2日間となりました。私が鳥羽商船高等専門
学校に職を得てからすでに約6年になりますが、その間COCETの幽霊会員でした。
しかし、一昨年あたりからCOCETを前向きに捉えるようになり、今回につながり
ました。ここでは、COCETに出席するまでの事情を述べたいと思います。
 商船で教え始めて気づいたことは、私は英語を教える上での基礎的なテクニッ
クを全く身につけていないという事実でした。私はエドマンド・スペンサーの
『妖精の女王』を中心としたイギリス・ルネサンス文学を研究しており、それま
で英語教育について深刻に考えたことがなかったのです。大学の非常勤講師時代
には講読を中心とした授業で問題なかったのですが、鳥羽では違っていました。
学生は、やる気がなく、少しでも目を離すとすぐ別の事をし始めるというような、
私には「これまで見たこともない」学生でした。指導力がないという事実に加え
て、英文学を研究しなければならないことが重圧となって私にのしかかってきま
した。騒ぐ学生、ごみ箱のような教室、頻繁な遅刻と欠席、曖昧なきまり…など、
不透明なことの多い中で16世紀の寓意詩を読み、論文を書くということなど到底
できませんでした。この状況を相談できる友人等の横のつながりもなく一人取り
残されたような感じでした。英文学の研究会に行っても、出席者が別世界の人の
ように見え、発表されている内容と私が置かれてよういる現実との差にいたたま
れなくなって途中で退室してしまったこともあります。同僚の先生に授業の大変
さを訴えはしましたが、男性教官には基本的にわかってもらえない部分がありま
した。身長や体格、雰囲気、声の大きさや音色、体力的な面など、性差の面は否
定できません。女性教官はやはり学生に甘く見られてしまいます。当時の私の悩
みは、高専の女性教官であるということともかなり重複していました(鳥羽では
女性教官は二名だけです)。しかし、下手なりにも授業数をこなしているとそれ
なりの技術もついてくるようです。また、担任を経験して、学生との距離のとり
方、応答の仕方、学生をやる気にさせる技などもわかってきました。学生は日に
よっていろいろな面を見せてくれます。騒ぐ日もあれば、静かに勉強する日もあ
ります。授業がうまくいかない日があれば、こんな日もあると気軽に考えること
にしました。そうすると肩の力も抜けて楽に授業ができるようになったようです。
そしてようやくわかりました。授業は一種のコミュニケーションであることを。
私が女性教官であることで生じる不利な面は、授業の工夫と学生と良好な関係を
作り上げることが多くを解決してくれることを。こうして、私自身に英語教育を
勉強する必要性が迫っていることを自覚し、思い切って教え方セミナーなどに参
加しました。授業を大切に考え、忙しい中でも研究を続けて頑張っておいでにな
る先生方がエネルギーを与えてくださいました。そうすると、英文学も平行して
研究する余裕も生まれ、一年に一本ですが英文学関係の論文も書けるようになり
ました。こんな流れが今回のCOCETの参加と発表に至ったのです。今の私の専門
はもちろん英文学ですが、授業実践報告なども書き、積極的に活動しています。
読み、書き、研究する機会が与えられている有難さがようやくわかってきました。
 今回、COCETに出席して気づいたのは、この会は他の高専の女性教官に会い、
話し合う機会を提供する役割をも果たしているのだということでした。高専では
女性教官は目立ちはしますが、孤立してしまい勝ちです。私の友人は高専に就職
できたもののさまざまな事情が重なり辞めてしまいました。こういった人たちを
出さないためにもCOCET大会を利用して女性教官が集まり、意見や情報を交換す
ることを組織的に行ってはどうかと考えています。


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まだまだ少ない高専女性教官      富山高専 青山晶子
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 多くの高専の女性教官がそうであるように、私も富山高専では初の女性教官と
して採用され、11年になります。高専に赴任したその年に、初めて参加したコセ
ットの大会は、東京のカンダパンセで開催され、参加者50名という今よりももっ
とアットホームな会でした。ここ数年は、女性の参加者も増え、高専の英語教師
の心のよりどころであり、また、研究への刺激を与えてくれる場であるコセット
に、華やぎが加わったように感じます。
 さて、高専の女性教官の数について、皆さんはどのようにお感じでしょうか?
私の周囲の北信越地区の高専の英語科だけをみると、女性が比較的多いのですが、
津山高専の黒瀬紘子先生と中岡尚美先生が平成12年度の全国の国公立高専57校を
調査なさったところ、全高専教官に対する女性教官の割合はわずかに3.76%、女
性教官がゼロという高専が6校もあったということです。国際的にみて理工学系
分野における女性の占める割合が低いことを考慮しても、あまりにも少ないので
はないでしょうか。
 男女共同参画社会基本法が制定され、国立大学協会も2010年までに国立大学教
員の女性比率を20%にする、という数値目標を提示しました。数値目標を掲げた
りすると「逆差別だ」として、依然として抵抗が強いようですが、性や出身大学
などにかかわらず、多様な人材が公正に任用され、結果的に女性教員が増加する
ことが一番望ましいことはいうまでもありません。しかし、現状では、何らかの
ポジティブ・アクションをとらない限り女性教官がある程度の人数にまで増える
ことは非常に難しいと思われます。ポジティブ・アクションとは、ジェンダー・
バイアス(社会的、文化的な性差に基づく差別)を無くす取り組みのことで、日
本では、女性が少ないポストで資格や経歴等が同等の場合には女性を優先しよう
というものです。セクシャル・ハラスメントの問題もジェンダー・バイアスの一
つですが、セクハラだけがマスコミの注目を集め、ジェンダー・バイアス一般に
ついては大きく取り上げられないでいるのは残念なことです。
 興味深いことに、すでに女性が活躍している分野には女性の参入が活発になり、
反対に女性の少ない分野へは、参入に対して消極的になる傾向があります。従っ
て、理工学系のように女性の比率の極端に低い分野ではいつまでたっても女性が
増えないという悪循環が起こりやすくなります。逆に、女性が多いところでは、
身近なロールモデルが豊富で、情報交換や相談のためのネットワークが形成され
やすく、女性の進出がますます促進されることになります。ロールモデルという
意味では、専門学科の若い女性教官は女子学生の等身大のキャリア・ターゲット
であり、専門学科に女性教官を増やすことが、女子学生のキャリア形成への強力
な動機付けになります。
英語科に女性教官が多いことは、教科の特質もさることながら、英語科の男性教
官のジェンダー・フリー(英語ではbias-free か gender neutralと表現するの
でしょうか)に対する意識の高さの現われだと思います。男性も女性も、ともに
育児や介護と仕事を両立し、生き生きと活躍できる職場のシステムや雰囲気が整
うにはまだ時間がかかるでしょうが、まずは高専にも女性教官がもっと増えれば
と思います。
最後になりましたが、調査資料を快く提供して下さいました、黒瀬先生と中岡先
生に心よりお礼を申し上げます。


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 英語科紹介 「長岡工業高等専門学校 英語科」
        長岡高専 高橋美智子
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 去る11月9日に関東信越地区の英語弁論大会が、長岡高専で行われました。
当日はとても寒く、雪がちらついていたので、関東地区から来た出場者、ならび
に引率の先生方はびっくりされたことと思います。長岡は冬には雪がつもり、あ
まり太陽が出ない地域ですが、英語科のスタッフはいつも真夏の太陽のように明
るくかがやいています。
 さて、私、主任の高橋です。東京出身で、こちらに来てもう8年になります。
赴任した当時、長岡高専初の女子教官ということで文部広報という新聞に写真入
で紹介されたのには、凄い所(つまり女性の存在が珍しいと思われる場?)に来
てしまったものだと驚いたものです。考えてみると、高専にいる女子学生は全体
の1割程度ということもあり、教官社会は典型的な男社会が続いているようです。
残念ながら専門学科には女性教官はいまだにひとりもおりません。それに対して、
わが英語科は今では5人中3人が女性で、その過半数を占めています。先ほど述
べた太陽パワーのひとつの要因はそこにあるのではないかと思います。
 これから、英語科スタッフの紹介をするわけですが、私が常日頃から感じてい
るのは、チームワークのすばらしさです。特に今回の10年に1度の大イベント
である英語弁論大会をなんとかやり終えて、それを再度実感いたしました。一人
一人が個性的で、みんな著しく異なっています(We are unusual except me)。そ
れぞれの個性を生かした役割分担が非常にスムーズに行われ、自画自賛になって
しまいますが、Beautiful!以外の何物でもないと思います。
 それでは、赴任の新しい先生順に紹介していきます。

*近藤多香子(Ms. Takako Kondo)
 福島県出身で専門は英文学です。公立高校勤務後、高専に来て、今3年目です。
現在、仕事と両立させて、コロンビア大学Teacher's College 英語教授修士課程
で英語教育を勉強中の努力家です。
 彼女の特技は会議中に寝てしまうことで、前の学校では、「眠り姫」と言う異
名をとり「いつも仕事で疲れているのね。」と同情されていたそうです。うらや
ましい限りです。(もし、それが私だったら、「眠り婆」と呼ばれてごうごうと
非難されるだけ?)そのように守ってあげたくなるような女性です(でも、実は
精神的にとってもタフな女性です)。来年の春、めでたくゴールインします。私
たちの目下の心配は結婚披露宴で眠ってしまうのではないかと言うことです。

*自見壽史(Mr. Hisashi Jiken)
 名前からして変わっていますね。彼には自分で自己紹介してもらいます。
自見:私は、生まれも育ちも松戸市の矢切です。実家は一時有名になった「矢切
の渡し」まで歩いていて10分ほどのところにあります。とはいっても、実際に
乗ったのは今までに5回ほどしかありません。乗りたいという客人を案内して、
何回も船着き場まで行ったことはありますが、たいていはその人が往復して帰っ
てくるのを岸で待つか、対岸の帝釈天に自転車で先回りするかです。
高橋:おいおい、矢切の紹介ではないんだけど。
自見:あっ。そうか。まじめにやります。英語教師になる前は、歌舞伎の解説書
の編集をしていたこともあり、前から興味があったシェイクスピアの研究をして
おります。日常では、実用一点張りの科学英語を教えることがほとんどです。私
の場合、教育と研究のギャップが大きいのですが、シェイクスピアの世界は汲め
ども尽きぬ泉のように豊穣であり、私にとっては、砂漠の中のオアシスのような
存在です。
 現在は、『ヴェニスの商人』をカーニヴァル的な見地から読む、ということに
取り組んでいます。ホロコースト以降、シャイロックは、どちらかというと悲劇
的に描かれる傾向が強いのですが、ミハイル・バフチンの研究を用い、この作品
は如何にカーニヴァル的な要素に満ちているかを、立証することを目指していま
す。
高橋:よくわかりませんが、とりあえずがんばって下さい。

*若尾彰子(Ms. Akiko Wakao)
 和歌山県出身です。関西弁で授業をやっているそうで、ときどき、学生も関西
弁になっている場合があります。(関西弁教えないで、英語教えてね)専門は英
語教育で、あとから登場する鞍掛先生とともに、CALLの研究をしております。
(最近はジェンダー教育にもめざめたらしい)我が校の英語科のCALLは若尾・鞍
掛先生で確立され発展していると言っても過言ではありません。
 アメリカのセントマイケルカレッジ(TESOL)留学の経験を生かし、英語学習研
究会の顧問として、留学を目指す学生達にTOEFLの指導をしています。若尾先生
の影響を受けて留学をめざす学生があとをたちません。
 彼女は一言で言うならば、「パワーのかたまり」、いつもエンジン全開です。
高専の中で彼女を怖がっている人は数知れず、あの関西弁で反撃されると、たい
ていの人はビビってしまいます。でも実際は心優しき女性で、人に対する心遣い
は、人一倍です。現在、アメリカ人のやさしい旦那様と一緒に、かわいい息子の
康平君(2才)の子育てと仕事の両立で奮闘中です。がんばれ若尾ママ!!

*鞍掛哲治(Mr. Tetsuharu Kurakake)
 鹿児島県出身の大酒豪(若尾先生といい勝負!)で、且つ甘い物にも目があり
ません。CALLやテスト理論が専門ですが、もともとは理系だそうです。アメリカ
のサンフランシスコ大学(TESL)に留学経験があります。若尾先生と一緒に、我
が校のCALLを推進しています。仕事熱心で、事務的な仕事能力も抜群です。大変
な仕事を進んで引き受け、全部こなしていきます。(夜一番遅くまで研究室に残
って、電気を消費している環境には優しくない先生かな?)鞍掛先生に仕事を任
せた場合の安心度は100%という定評もあります。特にすごいのが、試験問題な
どのチェックです。タイプミスは言うまでもなく、スタイルに至るまで、完璧に
チェックしてくれます。「仕事は効率よく」がモットーの私は、最近自分でチェ
ックする前に鞍掛チェックをお願いしてしまっています。(ごめんなさい。)
 イメージ湧きませんが、クラブは体操愛好会の顧問です。本人も「経験がない
ので学生に任せっきり」といっておりました。(はい、納得)
 家庭では、二児の父親で、子育て、家事において、よく奥様に協力しているよ
うです。(鹿児島男児に対する私の偏見はぬぐい去らないといけないかな?)ま
た、最近、ガーデニングに凝っているということで、今年の夏は、スイカと朝顔
を植えたそうです。スイカは、なんと貴重な1個が収穫できたということで、将
来の農業経営も夢ではありません。長岡では、冬は地面が雪の下に隠れ、園芸が
出来ないのが残念だとぼやいていました。

*高橋美智子(Ms. Michiko Takahashi)
 ラストエントリーです。専門は英語学形態論で、現在は英語教育・社会言語学
にも興味を持って取り組んでおります。他の方々の強い個性と比べると、私はご
く普通です。強いて言えば、超楽天家で元気なのが取り柄でしょうか。ただし、
結構ドジなので、皆様には結構ご迷惑をおかけしていると思います。(ここだけ
の話ですが、期末テストで、解答を印刷したものを配ってしまい、テストをやり
直したこともありました。)見かけと行動のギャップが大きいところが面白いら
しく、その点が受けているようにも思われます。
 自称、必殺遊び人です。(もっともその遊びとはスポーツ全般です。)頭を動
かすのは苦手ですが、体を動かすことが好きで、同じスポーツジムに通っている
若尾先生からはsport addictとまで言われております。テニス、エアロビ、ス
キー、その他いろいろ、私のストレスはすべて運動することで発散されています。
スキーはこちらに来てから本格的に始めましたが、本当に面白いです。有名ゲレ
ンデまで、1時間半という恵まれた環境にいられて、本当にラッキーだと思う今
日この頃です。
 長岡高専英語科のイメージを多少なりともつかんでいただけたでしょうか。今
後ともよろしくお願いいたします。コセットやその他の研修でお会いするのを楽
しみにしております。


<事務局より>

 来年度は京都の京大会館を会場に8月23日・24日に開催予定。

(来年度の大会で発表を希望される方は、お早めに
小澤 ozawa@ge.nagano-nct.ac.jp もしくは
小寺先生 kodera@fukui-nct.ac.jp までお申し出ください。)


<編集後記>
 はじめに、超多忙なスケジュールのなかJABEEに関する貴重な提言を書いてく
ださった四ツ柳隆夫先生、そして、編集過程でお世話になったCOCETの皆様に感
謝申し上げます。
 昨年のCOCET東京大会で都立高専の山田先生から「女性から見たCOCETで」と編
集のお話を受けた時は、なんだか運命のようなものすら感じてしまいました。と
いうのも、私に個人にとって、昨年は「女性」との出会いの年だったからです。
育児休業から職場復帰して、仕事と育児の両立で心身ともボロボロになっていた
時、一人の女子学生が研究室に訪ね「英語スピーチコンテストに出ます。テーマ
は高専の女子学生の悩み!」と言ったことが始まりました。そのスピーチがきっ
かけで、他の女子学生達とも女性学のワークショップに行ったり、本を交換した
りするようになりました。また、教官の間でも、寮の宿直や見回り、運動部の合
宿における女性教官の役割について議論が持ち上がり、考えさせられることばか
りでした。また、私自身、担任を引き受けるにあたり、育児で担任業務が十分こ
なせるか不安だったので、初めて副担任という制度をつくってもらうなど、自分
が女性であることを思い知らされました。
 この編集を通じて感じたことは高専で女性が女性の立場について語ることがい
かに難しいかということです。日頃圧倒的に男性が多い職場で働いていると、マ
イノリティーである女性が本音を語るには相当な勇気が必要であるということが
分かりました。それにもかかわらず、原稿を書いてくださった女性の皆さんに心
から感謝します。そして、女性の声を聞こうとしてくださった男性の皆さんの理
解とやさしさにも感謝!        (長岡高専 若尾彰子)
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