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COCET通信        第15号 (07.5.22)
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目次

(1)「今日までそして明日から ~あいさつに代えて~」
             岐阜工業高等専門学校 亀山太一(COCET会長)

(2)「Laughter may be a good tool for communication」
            都城工業高等専門学校 崎山 強(COCET副会長)

(3)「読み」中心の英語教育を
                    沼津工業高等専門学校 林 剛司

追悼 千葉元信先生
            宮城工業高等専門学校  武田 淳(COCET副会長)

編集後記

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(1)今日までそして明日から ~あいさつに代えて~

                    岐阜工業高等専門学校 亀山太一

 「誉めて育てる」という言葉がある。私は、幸運なことに、誉められて育った
人間の一人だと言える。
 大学での恩師、F先生は、学生の才能を引き出す天才だった。F先生の講義内
容はほとんど覚えていない。というより、ほとんど講義をしない先生だった。と
にかく、学生を動かす。機械好きだった私は、ビデオ教材制作を担当した。作っ
たものを見せると、「お、これはいいね」と言う。その一言で、もっといいもの
を作ってやろうという気になったものである。
 しかし、高専という職場に入って、誉めてくれる人がいなくなった。数年間、
自分が伸びている気がしなかった。
 当時、1年分のボーナスをはたいてパソコンを買い、パソコン通信(今ではほ
とんど死語?)を始めていた私は、「電子メール」を使ったコミュニケーション
に可能性を感じていたが、今とは違って、簡単に海外にメールが出せる状況では
なかった。
 平成3年頃から、教官室の電話回線を使ったメールの発信が可能になり、学術
情報ネットワーク(NACSIS)を利用して海外にもメールが出せるようになった。
"a mail"という英語がまだ文法的に誤りとされ、ホームページ、ウェブという
カタカナ語も存在しなかった時代である。研究室でパソコンをいじっていても、
「遊んでいる」という評価しかされなかった。
 そんな折、長岡技科大で行われたセミナーで、米子高専(当時)の奥村先生
(第6代会長)と、都城高専の崎山先生(現副会長)に出会った。
 このセミナーで私は、パソコンを電話回線につないで海外の学校と電子メール
で文通するという授業実践を発表した。今ではもう過去の遺物のような実践だが、
お二人はそれを「褒めちぎって」くれたのである。
 このセミナーでは、ほかにも何人かの個性的な高専教員と知り合うことができ
た。3泊4日という長丁場のセミナーで、参加した高専教員同士、連日飲みなが
ら語り合った。私が「高専っていいところだな」と感じるようになったのはその
ころからだと思う。
 奥村先生の、「若い人ががんばってくれるのは本当にうれしい」という温かい
言葉や、崎山先生の「これからは若い人の時代だよ」というエールは、自分のや
ってきたことが無駄ではなかったという安堵感と、もっと新しいことをやってや
ろうという意欲を私に与えてくれた。このお二人には、その後もお会いするたび
に温かい言葉をかけていただいた。退官後の奥村先生にはお会いする機会がなく
て残念だが、崎山先生には現在進行形で励まされ続けている。
 ひるがえって、自分だったらどうだろう、としばしば思う。自分の理解できな
いものに対しては、「そんなものどうせ役に立たないだろう」とか、「理想と現
実とは違うよ」などと、つい否定的な言葉を言ってしまうのではないかと不安に
なる。
 設立から30年を経て、COCETもひとつの節目を超えた。大会に参加する若い先
生たちの数も増えたように思う。かれらを「育てる」などという大それた気持ち
はないが、少なくともCOCETを、高専を、居心地のいい場所にして、またかれら
自身が高専やCOCETを育てようという気になってくれるようにすること、それが
これからの自分の仕事ではないかと思っている。

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(2)Laughter may be a good tool for communication

                    都城工業高等専門学校 崎山 強

 小生が勤務し始めた頃、プリント作成はガリ版刷りであった。微妙な力の入れ
具合がプリント作成の“失敗・成功”を左右する、まさに‘手作り’である。フ
ォントも文字サイズも規制無し。作成者の気分次第。
 ただひたすら学生の為に切る・切る・切る。
 それから程なくして、オリベティ英文タイプライターを購入し、人さし指だけ
で打つ“一本足打法”。段落の切れ目で、よく指を挟み、抜けなくなり痛い思い
をしたことが幾度か。
 それから登場したIBM電動式タイプライターは小生にとっては『女神』であっ
た。静かに“カタカタ・カタカタ”と機織るように夜遅くまで。“カタカタ・カ
タカタ”
 入試問題等は、邦文タイプライターと併用して作成する。ある深夜、COCET顧
問の佐々木先生と遅くまで仕事していた。
「次の英文を読み、下の問いに答え....」。
 眠気も災いしていたのであろう。小生は、「答え …. 」の後、タイプライ
ターをひっくり返してしまった。眠気もさめ、呆然! どうしよう!目の前は
裏返しになった活字が部屋中散在している!何がなんだか分からない。
 今となっては“お笑い”である。夜中に仕事をする方が大体間違っている。
国語の先生にも手伝ってもらうこと5時間くらいだっただろうか。
 「これは鬱かな?」「いや、たぶん、これは穀だよ。」まさにジグソーパズル
である。
 朝も白々明けようとする頃、ほぼ完了。(「篆刻の先生にきて戴ければ時間が
節約できたろうに」と後日思うことであった。)
 その後‘文豪ミニ’に代表されるワープロの登場でプリント作成術は急展開し
た。しかし彼は今のコンピューターへの「ワンポイント・ピッチャーだったのか
な?」と思う昨今である。
 一方、授業でListeningを軽視していた訳ではない。毎時間、オープンリー
ル・テープレコーダーなる物を教室に提げて行く。実に重い。15㎏位はあった
だろうか。よく体力があったものである。(宿直明けやhangover では足取りが
重かった。)
 しかし、今のCDなどと比べて、流れる音声は明瞭だと思う。聴こえにくい短い
フレーズ等は「もう一回聴いてみるよ。」と言いつつ、両手を使いゆっくり回転
させることで指導出来た。しかし授業が終わり教室を出て歩き始めた時、リール
をよく落としたものである。本当に日々“笑い”の連続である。でもそこは工業
系の学生。丁寧に、素早く巻いて次の授業に間に合わせてくれたものである。
 本当にコンパクトなカセットの登場した時は画期的と思った。そのカセットも
今やデジタルの時代の波にのまれ姿を消そうとしている。
 このようなアナログの時代も終わり、急速に進むデジタル化。教材も音声もデ
ジタル化。頭脳もデジタル化しなくては。早く習得せねば笑われる。あせりだけ
は感じつつも、なかなか行動が伴わない。
「先生、Excel はこうやるんだよ。ここは1回クリック。しっかりしなさい。」
 「はい。」
「CDを焼く時は、こうするんだってこの前教えたじゃん。」
 「ごめん。忘れちゃった。もう一回教えて。」
「先生、レポートはプリントアウトする暇がなかったから、USBでいい?」
 「えっ?どうして? 僕はどうして、読んだらいいの?」

 いつも学生から笑われている。でも純朴な高専の学生はいつの時代も優しい。
「仕方ないなあ。先生、ほんとに今度までやよ。教えてやるから覚えなさいよ」
 「ごめんなさい。覚えます。今度こそ覚えます。」
と答えつつも、老化は記憶・学習能力にブレーキをかける。
 「こんな事を質問したら、笑われるかな?」と思いつつ、思いきって学生に質
問する。「福岡君、Excelの表のこの部分だけ、ワード文書に持ってくるのはど
うするんだったっけ?」
 今日もまた、学生達が手をたたいて笑っている。

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(3)「読み」中心の英語教育を!
                     沼津工業高等専門学校 林 剛司

 2006年4月に沼津高専に着任しました、林 剛司(はやし・たけし)です。よ
ろしくお願いします。
 2006年12月に、『英語は「多読」中心でうまくいく!』(単著、ごま書房)と
いう本を出版しました。初めての著書(単著)を出版することができたことを本当
に嬉しく思います。また、大変光栄なことに、「同時通訳の神様」とまでいわれ
た國弘正雄先生が、拙著の巻頭に推薦文を書いてくださいました。
 本書を出版するにあたり、これまでの自分の英語学習を振り返る機会、そして
英語教師として(まだ駆け出しの教師ですが)のこれまでの授業や、出会ってき
た同僚、生徒たちを懐かしく思い出す機会を得ることになりました。
 私は、高校在学中に、教師になろうとはあまり思っていませんでしたが、何か
しら英語を使った仕事に就きたいと思っていました。それは、高校時代の良い恩
師との出会いがあったからだと思います。
 その恩師の一人が、現在石川高専教授の太田伸子先生です。太田先生は、私が
金沢の高校の3年生のときにクラス担任でした。また、私が所属したE.S.Sの顧問
でもありました。
 私は、高校在学中に、英語のスピーチに熱心に取り組み、さまざまなコンテス
ト(石川県内のものから、全国規模のものまで)に出場しましたが、太田先生に
はスピーチのご指導でお世話になりました。それだけではなく、チャーチル杯全
国高校生英語スピーチコンテストに出場するにあたって、太田先生はご多忙の中、
引率者として一緒に東京(青山学院)や大阪(関西学院)に行ってくださったこ
とも良い思い出です。
 さて、本稿の主題である拙著について話を戻しますが、拙著は5つの章から構
成されています。第1章は、「学校英語」は本当に“悪”か?というタイトルで、
日本人の英語力のなさについては、常に学校英語が批判の的になるが、これは果
たして妥当であるのか否かを論じました。
 第2章は「私の英語学習歴」と題して、大した学習歴でもなくお恥ずかしい限
りですが、私の高校、大学時代の英語学習を振り返って、その学習法やそこから
考えたことを恣意的に書き綴っていきました。太田先生も登場します。
 第3章は「英語学習・英語教育に対する疑問」、第4章が「私が勧める英語学習
法」、そして第5章が「『読み』中心の英語教育でうまくいく!」というもので
す。
 拙著のタイトルは、はじめのうちは『「読み」中心の英語教育でうまくい
く!」にしようと思っていました。「多読」という言葉を入れたのは出版直前に
なってからでした。
 と言いますのも、私は多読指導については「初心者」で、素人だからです。し
かし、イチ学習者として、私は多読(らしきこと)は当然のこととしてやってき
ましたし、英語を話すことに自信が持てるようになったのも、多読を行ってから
です。
 英語で何か(内容のあること)を話したいと思うとき、それなりの情報が頭に
入っていないと話せないもので、その情報は、さまざまな文献を読むことによっ
て仕入れるわけです。芥川賞作家の平野啓一郎氏は、近著『スロー・リーディン
グの実践』の中で、「読書の面白さの一つは、読んだ本について、他の人とコミ
ュニケーションが取れるということだ」と述べています。
 私は現在専攻科の「英作文」の授業を担当していますが、英語で何かを書かせ
たいと思った場合も、頭の中に何もない状態でいきなり「何でもいいから、書
け!」と言うのは無理な話で、やはりいろいろなものを読んで、内容的にも言語
材料的にもさまざまな英文をintakeして初めて英語を書いたり話したりすること
が可能になるわけですね。
 私が今年度専攻科の授業で使う予定のSelect Readings (Oxford University
Press,2002)のIntroductionには、”Good readers make good writers. Reading
helps students develop writing skills, while writing experience helps
students become better readers.”と書かれてあります。
 私には、どう考えても外国語学習においては、「読み」中心の教授・学習が一
番理想的だと思えます。もちろん「読み」には精読、多読、音読などさまざまな
アプローチが可能であり、本文朗読音声教材も用いて「音声」も取り入れること
も必要です。そのあたりのことも拙著において、ささやかながら論を展開しまし
た。
 勤務校の専門学科の先生方と話をしていても、専門学科の先生方が英語教育に
一番期待することは「読む」力を学生たちにつけさせてほしい、ということです。
「読む」ことができる学生は、英語でプレゼンを行なったり、論文を書いたりで
きるようになるのも時間の問題だ、と。私が東京の大学のエクステンションセン
ターで2年間、社会人対象の英語講座を担当したときも、受講生の多くは、「英
語をきちんと読めるようになりたい」「英語で面白い小説をスラスラ読めるよう
になりたい」と言っていました。
 多読授業を始めてから気づいたことは(拙著の中でも、豊田高専やその他の学
校の多読実践を紹介する際にも述べましたが)、学生たちは面白い本を見つける
と、静かに夢中に読書に没頭します。中には読んだ本の内容について、嬉しそう
に教師に報告してくる学生に出会うことも珍しくありません。どんな学生も、何
らかの知的好奇心を持っており、何か面白い本を1冊読んだら、「あー、読め
た!」という達成感を味わい、さらに続き(次の1冊)を求めてまた静かに読書
に耽ります。これがまた彼らの学習動機を高めます。学生たちが夢中になって英
書を読んでいる姿を見ると、本当に感動しますよ。彼らが英語の本を自主的に読
んでいるんですよ!
 英語教育界は常に「○○先生考案の××メソッド」だの「メディア機器を使っ
た△△コース」だの、新しいものにすぐに飛びつき、きちんと成果を出していな
い(出せない)うちにまた次の最新の機器を使った学習法を生み出し、学生たちは
おろか、私などもそのときどきの流行り廃りが多すぎ、栄枯が迅すぎて目がまわ
ってきます。
 私たちは、自信を持って「読み」中心の英語教育を展開すべきです。学生時代
に大量の英文を読んだことは、きっと将来のキャリア、研究のうえにおいても役
に立ち、感謝されると思います。
 拙著では、豊田高専をはじめ、多読を授業に取り入れて成功している例を何点
か紹介しています。多読は、英語力を向上させることはもちろんのこと、学習態
度全般を向上させている、という例も紹介しています。「朝読書」などがその良
い例ですね。
拙い著書ですが、お読みいただければ幸いです。Happy reading, and keep on
smiling!

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追悼 千葉元信先生

      千葉元信先生、あなたは
                   宮城工業高等専門学校  武田 淳

 厳しい寒さに震えながら教官室のドアを開けた師走26日の朝、私を待っていた
のはあなたのご逝去を告げるメールでした。ほんの2週間前に次年度の担当授業
の打ち合わせをしたばかりだったのに、「ゆっくり病気と付き合っていくつもり
なんだよ」と、あの穏やかな口調でおっしゃっていたのに。元信先生、あなたの
追悼文を書くことになろうとは、私は今でもとても混乱しています。
 私が大学卒業後に初めて教壇に立った頃、あなたは既に宮城県の教育界で広く
知られる存在となっておられました。教員研究集会でのあなたの発表はいつも、
あなたの職人技ともいうべき教科教育のスキルに魅せられた教員で満席でした。
若手教員のみならず、ベテランの教員もあなたの発表に目を見張り、頷いていた
様子を覚えています。そんな研究会でお会いする度に新卒教員の稚拙な悩みを打
ち明ける私に、あなたはいつも丁寧に、優しく答えてくださった。
 東北地区で初めて英語科という特殊科が設置されたH高校の立ち上げに、あな
たは企画段階から尽力なさいました。英語科のカリキュラム編成に苦心した話、
一回生の入試を他校を会場にやりくりしながら実施した話、石ころだらけの校庭
を生徒と共に整備した話、そんな新設校立ち上げの苦労話を、後日あなたは実に
楽しそうに、少し懐かしそうに、話してくださいました。文字通りあなたを「追
って」1年遅れでH高校に勤務した私は、教員としての基礎をあなたから学びま
した。丁寧に、真摯に、温かく。未だにどれ一つとして教えていただいた通りに
出来てはいませんが、そんな教員としての規範を示していただいたことに、心か
ら感謝しています。JACET東北支部の幹事として全国大会の指揮を執られたのも
この頃でした。要領を得ない私たちをまとめながらご自身も発表をなさっておら
れたお姿に、同僚の教員は強く刺激されたものでした。
 いつも周囲を気遣い、雰囲気を和ませてくださる存在でした。公開授業の後に
厳しい評価を受け、肩を落とした新卒女子教員に、あなただけは温かかった。
「君はきちんと準備をし、私たちの前で立派に公開授業を終えた。だから堂々と
していいんだよ。」議論が白熱し緊張した職員会議も、元信先生の「だからね、
それはね...」のひとことで和んだものでした。
 その後、県内有数の進学校を経て宮城高専に赴任なさってからの元信先生のご
活躍については多言を要しません。辞書学、教育学、翻訳論を専門とされ、数え
切れないほどの論文を発表なさるとともに、多数の辞書や教科書、参考書を執筆
なさいました。COCET理事やJACET東北支部長などの要職を長年にわたりお務めに
なるなど、我が国の英語教育界において指導的役割を果たされたことは広く知ら
れる通りです。しかし、副校長(学生主事)となられたあなたは「任期中、土日
もほとんど学校に来ていたよ。心配だったから。」という過酷な生活に身を置か
れることを自ら選ばれたのでした。
 学生主事のあなたは「皆で仲良く仕事をしたい」という方針のもと、学生委員
会の中にビジネスランチや泊まりがけの分散会を定着させ、教職員間の親睦をは
かられたり、若手教員の発想の自由を最大限に尊重しながらも、失敗はご自身が
引き受けられたりと、ここでもやはり常に周囲に細やかな心配りを忘れずにいて
くださいました。現学生主事のI先生はこの頃の様子を「私たちは千葉学校で学
んだ」とおっしゃっています。
 元信先生、あなたのお人柄を伝えるエピソードには事欠きません。研究会であ
なたの発表の司会を担当した教員は後日必ず、あなたから丁寧な御礼状を受け取
りました。宮城高専が中学校訪問の後に担当者に礼状を出すようになったのも、
あなたのアドバイスのおかげです。指導を要する学生にはいつも、噛んで含める
ように穏やかに諭しておられました。学内誌にお書きになった「優れた人は大声
で怒鳴ったりしないということを、僕たちは経験則として知っている」という一
文は、私には忘れ得ぬ戒めとなりました。
 元信先生、皆とあなたの思い出を語り合っていて気付いたことがあります。学
生も教職員も、あなたを知る誰もが「私だけの元信先生」を心に抱いているので
す。キーツの詩集をいただいた、英語の発音を個別に指導していただいた、少年
野球の話が止まらなくなった、そっと花をプレゼントしていただいて感激し
た.....どれもあなたの穏やかで優しいお人柄を思い出させるものばかり。温か
く、懐かしく、悲しく寂しいものばかり。
 「元信先生、日に何度も会議をこなされ、きちんと授業もなさって、さらに多
くの研究成果を発表なさるには、いったいどんな秘訣があるのですか。」という
私の問いに、あなたは事も無げにおっしゃった。「簡単だよ、睡眠時間を削るん
だ。」手の届かぬところにいる憧れの先輩のこの意外な言葉が、自らの非力を恥
じる後輩をどれほど勇気づけたことか。
 あなたはまた、教科書編集という膨大な作業に寝食を忘れて取り組む理由を問
われ「将来、僕の子供たちがこの教科書で英語を学ぶこともあるかなと思うとね、
全然、苦労なんかじゃないんだよ。」ともおっしゃいました。今春、あなたの前
任校に見事に合格なさったお嬢様は、このお言葉をご存知でしょうか。
 昨年春のJACET支部役員会の帰り道、あなたは急に、少し強引に、K先生と私
を近くの公園に花見に誘って下さいました。満開の桜の下をゆっくりと歩きなが
らあなたはK先生に「COCETの有志でまとめた単語集がね、とてもいい出来なん
だよ。」と話して下さいました。COCETの後輩としてこの上なく力強いエールを
いただいた思いです。
 元信先生、H高校の離任式であなたはT.S.エリオットの詩を引用して全校生に
優しく、しかし毅然と語りかけられました。「春は別れの残酷な季節だ。しかし
次の新たな出会いに希望をもって生きていこう。」残された私たちが顔を上げて
前を見つめられるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれませんが、先
生から引き継がれた使命はきちんと見えています。
 千葉元信先生、どうぞ安らかにお休みください。

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※千葉元信先生の膨大な研究業績をご覧いただくにはとても紙面が足りませんが、
宮城高専の岡﨑久美子先生がJACET東北支部の広報委員としておまとめになった
資料があります。(JACET東北支部通信31号(追悼 東北支部長 千葉元信先生、
2007年3月、p.19、一部更新))ここに謹んで転載させていただきます。
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      千葉元信先生のお仕事について

研究・教育略歴
国立宮城工業高等専門学校総合科学系教授(副校長2003-05)、文部科学省在外
研究員(ロンドン大学 Visiting Professor 2001-02)。東北大学薬学部・東北
学院大学文学部非常勤講師
JACET東北支部幹事(1995-2004)、東北支部長(2004- )。全国高等専門学校英
語教育学会理事(2002- )
科学研究費補助金(基盤研究(B)(共同)1994-97、基盤研究(C)(個人)
2004-07、基盤研究(C)(共同)2004-07、基盤研究(C)(共同)2005-08)
その他 実用英語検定面接委員(準1級)、名取市国際交流実行委員会委員 など

主な著書(1. 英語教師・一般社会人対象 2. 辞典 3. 文部(科学)省検定済
教科書 4. 高専・高校生対象教材 5. 高専・大学生対象教材)
1.『実践的英語科教育法―総合的コミュニケーション能力を育てる指導』(共
著)成美堂 (2001)
『TOEICテスト ハイパー模試600+200問』(共著)旺文社 (2003)
2.『カレッジライトハウス英和辞典』、『ライトハウス英和辞典第3版』(共
著)研究社 (順に1995, 96)
『ロングマン英和辞典』(共編・校閲)ピアソン・エデュケーション (2006)
3. Spectrum English Reading、Spectrum English Reading Revised Edition
(検定済教科書、共著、各Teacher’s Manual、Student’s Book等を含む)桐原
書店 (1994, 98)
PRO-VISION English Course Ⅰ、PRO-VISION English Course Ⅱ、PRO-VISION
English Reading、PRO-VISION English Reading New Edition(検定済教科書、
共著、各Teacher’s Manualを含む)桐原書店 (2002, 03, 03, 07)
4.『総合英語演習WING』vols. 1-4(単著)桐原書店 (1990-91)
PROSPECT vols. 1-5(単著)桐原書店 (1996-98)
『新総合英語』、『新総合英語文法書』(共著)研数書院 (1996)
5. Reading Breakthrough on the World、Reading Landmarks of the World、
Reading Mainstream of the World、Reading Focus of the World(共著)三修
社 (1999, 2001, 03, 06)
Nature and Science、Science and Culture(共著)青踏社 (2005, 06) など

主な訳書(1. 英語教師・一般社会人対象 2. 語彙関係)
1.『新しい英文法の学び方・教え方』(共訳)ピアソン・エデュケーション
(2001)
『ネットサービスを先取りするアメリカ・オンライン』、『ネット書店から発展
を続けるアマゾン・コム』(共訳)三修社 (2002, 03, 改訂2004)
2.『英単語パワービルダー』(編訳)、『英単語ネットワークビルダー』(共編
訳)ピアソン・エデュケーション (2002) など

主な論文(1. 教材研究開発論・語彙論など 2. 辞書書評・手引書など)
1.「リーディング教材の開発」(共著) 『論文集「高専教育」』(2001)
「創造的な教材開発をめざして」(共著) 『全国高等専門学校英語教育学会研
究論集』(2002)
「学習英英辞典の変遷と英和辞典」(単著) Peripatos 桐原書店 (2006)
「新刊英和辞典6冊を読む」(上)・(下)(単著) 『現代英語教育』研究社
(1992)
「実用的な英語表現を使いこなすために」(単著) 『英語教育』大修館書店
(1995)
2.『新英和中辞典第6版』(研究社、書評、単著) 『現代英語教育』研究社
(1995)
『新英文法用例辞典』(研究社、書評、単著) 『現代英語教育』研究社 (1998)
「ニューベリーハウス アメリカ英語辞典使用の手引」(単著) Heinle &
Heinle+桐原書店 (1996)
「加速する英英辞典の開発」(シリーズ第1回。全3回)(単著) amazon.co.jp
ホームページ (2002-03)
 その他 教材開発研究・語彙論・英文学研究等の論文、書評、手引書、翻訳、
国際会議等講演、シンポジウム、研究発表、公開講座、校閲 など。 役職・研
究業績 他多数
(本リストは編集委員が作成したものです。調査・選択に不行き届きがございま
したらお詫び申し上げます)

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編集後記

 2007年度新執行部のもと、初めての通信をお届けします。
 沼津高専の林先生が「英語は多読中心でうまくいく!」を上梓なさったことは、
日経新聞の広告で知りました。「あーぁ、やっぱり英語はムリか・・・と諦めて
いるマジメな人にぜひ読んでもらいたい一冊!國弘正雄氏も絶賛。」というコ
ピーの「マジメな人に」というところに心を動かされ、すぐに購入しました。林
先生は、前号でスピーチの指導法についてご寄稿いただきました石川高専の太田
伸子先生の教え子でいらっしゃいます。COCETに、太田先生と林先生という
素晴らしい師弟がおいでになること、また、自分がその仲間でいられることの、
嬉しさと誇らしさを感じることができた一冊であり、また、英語教員に勇気と自
信を与えてくれる本でもあります。皆様、是非、ご一読を。
 昨年末に宮城高専の千葉元信先生が亡くなり、早5ヶ月が経とうとしておりま
す。宮城高専の岡﨑先生がまとめて下さいました千葉先生の数々の輝かしい業績
を見ていると、お会いするといつも辞書や教科書のことについて教えて下さった
先生の優しいお声が聞こえてきそうです。千葉先生のご冥福を心よりお祈り申し
上げます。
 夏の京都大会で、皆様にお会いできますことを楽しみにしております。
                          (編集 青山晶子)
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