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COCET通信        第12号 (05.7.20)

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COCET通信        第12号 (05.7.20)
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目次

 巻頭言 「英語教育の問題点(連携の観点から)」  
                 北九州工業高等専門学校  大谷 浩

 特集   連携の実際

(1)いつも一緒、何処でも一緒  
                 都城工業高等専門学校  崎山 強

(2)佐世保高専英語科      
                 佐世保工業高等専門学校 大里 浩文

(3)高専における「連携」-中等教育機関間及び高専内同士での比較・考察
                 苫小牧工業高等専門学校 山西 敏博

(4)四国高専共通試験実施のご報告
                 高松工業高等専門学校  宇野 光範

(5)ITを通じた連携 ―「高専IT教育コンソーシアム」―
                 松江工業高等専門学校  岩田 淳 

(6)KKN13のメンバーになって
                 福井工業高等専門学校  瀬川 直美

(7)むずかしい?連携
                 北海道工業大学     工藤 雅之

(8)EFL、ELF、EILの現状と課題
                 上智大学        吉田 研作

 高専紹介 「大阪府立工業高等専門学校」
                大阪市立工業高等専門学校 西野 達夫

 第29回研究大会のご案内

 編集後記
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  巻頭言   英語教育の問題点(連携の観点から)  

                 北九州工業高等専門学校 大谷 浩

 どんなことに取り組むにしても、それに関わる人達に一定の共通理解や合意
がなければうまく進みません。日本の英語教育に関しては、一昔前なら「文法
訳読方式」が「英語の授業」でした。その善し悪しは別として「英語教員のな
すべきこと」がはっきりしていました。ところが現在は違います。何をやって
良いかわからない。「訳読」は批判されるし「コミュニケーション重視」では
読み書き能力が身につかないと不満が出る。「具体的に何をどう教えたらいい
の?」と偉い先生方に尋ねても明確な答えは返ってこない(「コミュニケーシ
ョン活動とは口頭練習のみを指すわけではなく、置かれた状況の中で必要とな
る単語や表現を学び、、」云々)。つまり「教える内容」と「教え方」に関し
て自信を持って授業ができる英語教員が少ない、そのことが現在の英語教育の
大きな問題点ではないか、と思います。
 こうした状況を改善するために大切なことは、直面する現場を知ったもの同
士の「連携」ではないでしょうか。「現場」とは「クラス」であり「学年」で
あり「学校全体」でもあります。このレベルでは「英語科内」の連携が不可欠
でしょう。「近隣学校との連携」も視野を広げるために大切です。また現代は
インターネットの時代ですから「ネットによる連携」も大きな可能性を秘めて
います。そして英語教育の専門家達には国家レベル、国際レベルでの連携を視
野に入れた上で、現場の英語教員達に進むべき方向性についてアドバイスをし
て欲しいものです。
 今は英語教育のパラダイムがシフトしている時期です。誰も不安を抱えてい
ます。そんな時こそ仲間同士の「連携」が大切だと考えます。教員が「連携」
していれば学習者も安心して授業が受けられるはずです。ということで今回の
テーマは「連携」です。いろいろな場面での「連携」の実際をご報告頂きまし
た。かなりの分量がありますが、ご一読頂ければ幸いです。

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特集 「連携」の実際
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 まずトップバッターはご存じ(?)都城高専の崎山先生。崎山先生のdisarming
なお人柄に癒しを感じるのは私一人ではないと思います。そのメッセージは「連
携」の本質を見事に突いていると思うのですがいかがでしょうか?

(1)いつも一緒、何処でも一緒  
                 都城工業高等専門学校  崎山 強

 英検のリスニングテストには重たいオープンリールテープを使用していてやっ
ていた頃、私は都城高専に赴任しました。
 8歳上の佐々木先生にとてもかわいがられて、いつも一緒に過ごしていました。
今のようにワープロもない時代の話です。外部の入学試験を依頼されると、英文
はタイプライターで、和文は邦文タイプで打つという何と時間のかかる仕事を、
深夜遅くまでやっていました。お腹がすくと、二人で即席麺をすすりながら作成
したのを昨日のことのように覚えています。
 数年後、歌好きの二人に加わったのは西村先生。早速、その年の暮れ3人で
ヨーロッパへの旅を企画。(‘遊び’の計画は迅速にまとまるという優雅な時代
もあったものです…)憧れのロンドンに着いたのはクリスマスイブ。翌朝朝食を
とると、雪の中、市内を三人で‘歩く、歩く’。(お陰で後年、ロンドンの地図
がよく理解できたものです。)足がクタクタになりました。佐々木先生39、西
村先生26、そして私31の若さだったのです。ツアー中3人は教師であること
を隠し、“課長、係長”とお互いを呼び合うことにしていたのです。まさに“水
戸黄門漫遊記~欧州編”とでもいう楽しい旅でした。(その後、幾度となくヨー
ロッパを訪ねていますが、不思議なことに、この時の旅ほど脳裏に鮮明に残って
いるものはありません。)
 アウトドア派西村先生は『夏休み、英語科4家族でサマーキャンプをしよう』
という提案をされたのです。全家族が近くのキャンプ場に集合し、西村先生が釣
ったばかりの魚を早速テンプラに。これほどの贅沢はありません。夜は花火遊び、
そしてあどけない顔で眠りについた子供達。彼らも私が佐々木先生や西村先生に
巡り会った年になりました。
 『英語科で仲良くする秘訣』そんなものありません。ただ、何か嬉しいことが
あったら、それを酒の肴に皆で喜びを分かち合う。臨時収入が入ったら、すぐ美
味しい物を食べて、その夜のうちに使い切る。メールよりも電話。電話よりも実
際に顔をみて“おはよう。元気なの?”新しい宮沢先生が、昨年4月から我々の
仲間に入りました。嬉しい限りです。
私達都城高専英語科は、“いつも一緒、何処でも一緒”なのです。
 あっ、そう言えば、そろそろ“鯛が釣れたぞ。とりに来いよ。”と西村先生か
らの電話がかかってくる頃かな?
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続きまして、佐世保の大里先生。佐世保高専英語科の取り組みについてご執筆頂
きました。これを読むと佐世保高専がJABEE審査(5年間)に受かったこと
も頷ける気がします。

(2)佐世保高専英語科  
              佐世保工業高等専門学校 大里 浩文

0.はじめに
 JABEE受審、認証評価の導入など、近年、高等専門学校(以下、高専)を取り
巻く環境は社会の変化とともに激変している。その変化に伴い、各高専がそれぞ
れの独自性を打ち出し、学生指導の充実に日々努力しているところである。佐世
保工業高等専門学校(以下、佐世保高専)においても、平成17年5月、JABEE
に認定され、これまで以上に学生の教育支援に対する保証と創意工夫が求められ
ている。

1.佐世保高専英語科の取り組み
1.1 横並び
 従来、佐世保高専英語科では、シラバス作成・指導法・進度・評価法などは各
授業担当者に一任されており、他の英語科教員と協力して学生指導にあたる体制
ができているとは言えなかった。しかし、JABEEおよび認証評価の導入により、
学生の学年毎の実力アップを保証する指導体制の確立が求められる。そのために
は5年(7年)間の継続したシラバス作成と英語科全教員の共通理解が重要とな
る。また、同学年を複数の教員で担当する場合が多いが、教員毎で進度や指導法
が大きく異なると次学年での指導に支障がでてくる。よって、複数の教員が横並
びで担当する学年では、進度や指導ポイントの確認や協力した補助教材作成など
を行う時間が必要であろう。更には、定期考査においても、横並びの教員が協力
して問題作成し、評価の基準などを設定することが望ましいのではないだろうか。

1.2 外国人講師との連携
佐世保高専では、3人のnative speakerの英会話講師に来て頂いている。コミュ
ニケーション力アップのためには、native speakerの先生による授業は不可欠な
ものであるが、英語科の方針は充分理解してもらっているものの、成績処理など
教務上のことで行き違いがあったり、学生と意思疎通がうまくできないがための
ちょっとしたトラブルも起こったりすることがある。本校では、英語科の責任者
をはじめ、英語科の教員はできるだけ、非常勤講師室に出向き、nativeの先生方
と話をするようにしている。貴重な存在であるnative speakerの先生方の意見は
充分伺い、こちらの意図も伝えるよう努力し、連携を行おうと努力している。

1.3 TOEIC講習会
 本校のJABEEプログラム修了要件の一つに、本科(4、5年次)および専攻科
修了までにTOEICスコア400以上点を取得することを義務づけている。英語が
苦手な学生も多くいる現実の中で、全学生がその基準に到達することは必ずしも
容易なことではない。そのため、英語科の試みの一つとして、特に専攻科2年生
を対象としたTOEIC講習会を定期的(各10日から2週間程度)に開き、毎日放
課後の1~2時間の勉強会を英語科の教員が交代で担当している。英語科内で、
分担を決め、使用教材も共通のものを使ったりして、英語科のスタッフでできる
だけ話し合いの機会を設けながら対応をしている。

1.4 専門科目の教員との連携
 本校は、今年度よりe-learningシステムを導入した。きっかけは、そういうシ
ステムに興味を持っておられる専門科目の教員から英語科へ働きかけがあったか
らである。英語科のスタッフはまだまだアナログ的で、現代の情報化社会、デジ
タル化の波になかなかついていけないところがあるが、日頃から専門科目の先生
方と意思疎通を図っていることにより、高専の学生の特性にあったより有効な指
導体制へ改善することができると考える。

1.5 教員研修
 佐世保高専では教員研修の一環として、年に2週間程度の授業参観期間を設け
ている。これは、学校関係者だけでなく、外部の参観者も自由に参加可能な期間
である。日常では他の教員の授業を参観する機会は少ないことから、この期間を
利用し、教員相互が授業を参観し合い、参考点や改善点を指摘することで、各自
の授業改善に役立てている。英語科内の教員同士で授業を見学し、意見交換をす
るだけでなく、専門教員からも授業を見てもらい、専門教員の立場からも意見を
頂いたりしている。こういったことも、ある意味で「連携」であると考えられる。

2.おわりに
 「連携」というテーマで書いてきたが、少々こじ付けの部分もあり、その点は
お許しを願いたい。ただ、こういったテーマで書いてみると、改めて、学生の英
語力アップのためには、英語科内のみならず、他の教科や学科の教員とも日頃か
らコミュニケーションを図る努力をしておくことが必要ではないか、という思い
を抱く。コミュニケーションを教えるはずの英語の教員が他の教員とのコミュニ
ケーションが苦手な人がいる、といった指摘を聞くことがあるが、本校では、そ
ういった苦言だけは頂かないよう努力して行きたいと思っている。
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続きまして、苫小牧の山西先生。山西先生には「中学との連携」についても詳し
く触れて頂きました。


(3)高専における「連携」-中等教育機関間及び高専内同士での比較・考察
                 苫小牧工業高等専門学校 山西敏博

 ひとえに「連携」という言葉から連想をしても、高専における「連携」とは
様々な事例が考えられます。大谷編集長(北九州高専)が取り上げてくださいま
したように、「中学・高等学校との連携」、「大学や企業との連携」、「同高専
内専門学科との連携」、「同高専内英語科教員同士の連携」、「全国高専内での
英語科教員同士の連携」などが挙げられます。これらの事例の中で以下の2点に
絞り込みながら、「連携」の意義について比較、考察をしていきたいと思います。
1.中学校との連携
 高等専門学校(高専)は中学校を卒業した生徒を主として受け入れる教育機関
であり、「高等教育機関」に位置されています。しかしながら、1年生は高等学
校の生徒と同じ年齢層を抱えている事から、ある程度躾を伴ったキメの細かな指
導を、学習面においても生活面においてもしていかなければならないという現実
的な問題があります。ことそれを英語という教科教育の場面に絞って考えても、
中学からの履修内容を私達高専英語教員がどれだけ熟知しているかを事前の情報
としておく事が、高専における英語教育の基礎指導段階としては重要な事である
と思われます。

 具体的には、現在中学校では下記の文法内容は履修されてはおりません。
(1)関係副詞(昭和52年度より高等学校内容に移行)
(2)関係代名詞 whose, whom, 及び非制限用法
            (昭和52年度より高等学校内容に移行)
(3)感嘆文(平成元年度より高等学校内容に移行)
              (文部科学省, 2002)*1)

このように現在40代前半の英語教員が公立中学校時代に履修していた上記の内容
は全て高等学校履修内容として移行してしまっているのです。無論高専内でもこ
の40代前半以上と30代、また、30代とそれ以下の教員の間においても、世代間で
履修内容が異なっていたという現象も生まれます。しかしながら、私達高専英語
教員のみならず高等学校の英語教員の中にもこういった事実を知らずに、「こん
な内容は中学で習ってきているだろう」と頭ごなしに決めつけて授業を進めてい
ってしまう傾向にあります。
 2002年度の指導要領改訂後以来最低履修基準語も100語を含めて900語程度まで
の語となっている現状(文部科学省,2002)では、be interested inやexcuse me,
at homeは理解はしていても、be surprised at は2社の記述のみ、be
satisfied with に至っては全くの未習事項であるなど(熊井,2002)*2)、こ
れまで最低限度覚えてきてほしかった単語、熟語が公立中学校ではかなり抜け落
ちているという現実を私達は知っておく必要があります(一方、私立中学校では
この例には該当しません。私立中学では文部科学省検定教科書だけではなく別の
英語「副教材」を大々的に活用しております。そのテキストは中学1年次だけで
も公立中学3年分の履修語数にほぼ匹敵する900語近くを履修させる分量となって
おり、文法内容も中学3年生までに高等学校で習う文法のほぼ全てを系統立てて
履修してしまうという内容が網羅されている教材(Flynn他,2001) *3)です)。
 更に現在の中学校での英語教育はコミュニケーションが重視された内容になっ
ているので、必然的に文法の演習が以前よりはかなり弱くなっているという現状
もあります。いわく「英語が使える日本人」のスローガンの下に、「読み書き」
ができる事よりも「聞き話す」技能の方が重視されている傾向にあります。一方、
高専における英語教育は基礎段階では高等学校とほぼ同様の「読み書き」が中心
となるカリキュラムが大勢を占める傾向にあり、加えて3年生以上の上級生への
指導では、JABEE受信のためにTOEICにおいて学生に一定の得点を取得させるべく、
勢い「受験対策」指導に傾倒しがちな現況もあります。
 このような中学校での状況を知らずに高専1年生にやみくもに旧態依然の授業を
行っていくと、結果として「高専の英語にはついていけない」、「高専の英語は
難しすぎる」、加えて「先生は頭ごなしに自分達を『勉強不足の(もしくは出来
の悪い)学生達』と決め付ける」と、皆さんの学校でも行われているであろう年
度末の学生からのアンケート上に集中砲火の嵐となってはね返ってきてしまうで
しょう。
 こういった状況を打破するためにも、いたずらに「中学の先生は一体何を教え
てきたのか」と訝る前に、予め私達の側から中学校での履修内容に精通し、その
上で高専での英語教育を確立していく必要があると思われます。話は少々飛躍し
ますが、同じ事が大学の英語教員にも言えるでしょう。すなわち、高等学校の履
修内容を大学教員は知っておく必要があります。本来は「大学の顔」というべき
入学試験問題を予備校などに外部注文しなければならない実態の原因の一部に、
高等学校現場での状況を知らずに問題を作成し、受験生を送り出した側から後に
なって設問内容や難易度に対して「悪問である」とクレームがつくという失態を
繰り返してきたという事実があるのだと考えます(別宮,1996)*4)。
 子供は生まれた時には家庭で育ち、後に「園児」、「児童」、「生徒」、そし
て「学生」へと成長していきます。彼らを支援していく立場の私達も、同様に互
いに「連携」を取り合いながら、学習面及び生活面での相互援助をしていくべき
であると考えます。そのためには彼らが育ってきた「環境」(この場合には「過
去の履修内容」)を理解していきながら、授業を通じて成長への後援をしていく
必要があると考えます。

2.全国高専内及び同高専内での英語科教員同士の連携
 研究や調査を行う際に、単独で行っていくには自ずと限界はあります。そのた
めに同士が結集しての研究や調査には「連携」が不可欠となります。一方で高専
低学年の学生と同年代を抱えている高等学校の教員にも「研究会」なるものは数
多く存在しますが、「共同研究」のような形で一つのテーマに即して協力し合い
ながら調査、研究を行うといったことはそう多くはないかと推察します。強いて
言うならば、文部科学省や各都道府県、地方公共団体の教育委員会等が主催する
官製研修会で大学教授や指導主事らの講演を聞いて今後の自身の教育的な指導の
糧としたり、私製の研修会であってももっぱら学校現場での指導事例の紹介と、
それにまつわる指導の仕方についての討論形式が中心であろうかと思います。
 しかしながら、他方で高専は前述のように「高等教育機関」であるために、
「研究」といった分野では大学教員との「連携」も深く、それらは「学会」とい
った部署でつながりを持つ事ができます。加えてこの「COCET」自体も様々な情報
交換ができる場である事から、高専英語教員にとって共通のテーマや調査、研究
に即して共同で取り組むことのできる大変格好の場であると考えます。
 近年の「全国高等専門学校英語学会(COCET)」の中で行われた「連携」の一
例として、「高専の特色と目的にかなった英語教材の開発」(青山・亀山他,
2004)*5)及び「苫小牧高専に於ける英語学力試験導入について」(東・堀他,
2005)*6)などが挙げられます。前者は平成12年(2000)度のCOCETにおいて提案
された「高専英語教育改革プロジェクト」の一環として「高専生のための英単語
リスト」を編纂し、独自のWeb-Based Testを開発したものであり、後者は北海道
にある苫小牧工業高等専門学校において高専生の英語学力を外部から測定する一
環として、外部発注の学力テストを導入するに至った経緯と実施、その意義を考
察したものであります。
 前者は全国的な規模での、後者は一校内での実践ではありますが、どちらの実
践も研究者が一同に介して共通の目的に向かって取り組みを行った、いわゆる
「連携」が効を奏した好例となっております。その他にも愛知県・豊田高専の教
員が中心となり、SSS多読研究会を母体として発足し、活動を行っている「高専
多読研究会(ct-sss)」(吉岡,西澤他 ,2004)*7)や、岐阜高専内での「高専生
の英語学習に対する意識と現状についてーTOEICスコアとの相関からー」(高専
教育研究集会,2004)*8)など、全国の高専にも様々な「連携」を持って成果をあ
げている例が数多く存在しております。
 このように、前述のごとく一人で行う研究や調査には限界があっても、高専英
語教員という同胞が集い、知恵を出し合って一つのプロジェクトに立ち向かって
いく「連携」によって、大事業を成し遂げることができる素晴らしさを感じる事
ができます。ここに高専教員の専門性豊かな研究者としての素養があり、それら
を結集するからこそ素晴らしい成果があげられるのだと思います。「一人はみん
なのために みんなは一人のために」はラグビーの精神のみならず、高専内にお
いても確実に響く金言であると確信致します。

参 考 文 献
1)文部科学省(2002) ウ 語, 連語及び慣用表現  第9節  外国語 第2 
各言語の目標及び内容等 英語 2 内容(3)言語材料  中学校学習指導要
領 http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301/03122602.htm
2)熊井信弘(2002) 連語一覧表 平成14年度版中学校英語教科書における語彙
調査 pp.50 東京:(財)中央教育研究所
3) Flynn, Robert et al(2001) Progress in English 21 大阪:EDEC
4)別宮貞徳(1996) まえがき 欠陥だらけの大学英語入試 pp.2 東京:マガ
ジンハウス
5)青山晶子・亀山太一他(2004)高専の特色と目的にかなった英語教材の開発
メディア教育研究 第1巻 第1号 pp.129
6)東俊文・堀登代彦他(2005)苫小牧高専に於ける英語学力試験導入について
 全国高等専門学校英語教育学会研究論集 第24号 pp. 9-18  福井:全国高
等専門学校英語教育学会
7)吉岡貴芳,西澤一他 (2004)* 英文多読による個別自律学習の指導とその評
価  平成16年度高専教育講演論文集  pp. 131-134  東京:独立行政法人国
立高等専門学校機構
8)柴田純子(2004) 高専生の英語学習に対する意識と現状についてーTOEIC
スコアとの相関からー 平成16年度高専教育講演論文集  pp. 77-80  東京:
独立行政法人国立高等専門学校機構
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 さて、地区高専連携の例として「四国高専共通試験」があります。この取り組
みについて高松高専の宇野先生にご報告をお願いしました。


(4)四国高専共通試験実施のご報告
                 高松工業高等専門学校   宇野光範

 2005年1月11日に、阿南、高知、新居浜、詫間電波、高松の5高専で英語の
共通試験を行いました。実際の試験実施に至った経緯と、その後の課題等を、主
に運営という視点から簡単にご紹介させていただきたいと思います。
 四国地区共通試験実施の具体的な方針は、2004年2月に、四国地区高専教務主
事会議において打ち出されました。その主な内容は、(1) 試験は、数学、物理、
化学、英語について行う、(2) 各校はどの教科に参加するかを決定する、(3) 
主幹校は持ち回りとするが平成16年度に関しては高松高専とする、(4) 結果の
データは各高専が活用し情報交換を行うが、外部への公開は行わない、といった
ものです。これを受けて、英語科での試験実施の調整が開始されました。なお、
英語科全体の取りまとめは、昨年度主幹校担当者で、現在、兵庫県立大学助教授
の寺西雅之先生がなさっておりました。
 さて、英語での参加校は先にご紹介した5高専に決まり、各校の「共通試験担
当教員」を中心に、主にメール交換により具体的な運営についての調整がなされ
ました。論点は、(1) どの学年に、どのような試験を実施するか、(2) 実施時期
はいつか、といったものでした。まず実施時期については、1月に共通試験の日
を設けることに早い段階で決まりました。それは1月に実力テスト等を既に実施
している高専があることによるものでした。(1)の実施試験については、英検評
価テスト(3年)、英語運用能力評価協会ACEテスト(3年)、TOEIC模擬試験(4
年)、TOEIC IP(4年)、などが候補としてあがりました。最終段階でACEテスト
とTOEIC IPに絞られ、学生へのフィードバックの考慮などから、ACEテスト(桐
原書店などが代理)を3年生に実施する、ということでまとまりました。これら
が決定したのは2005年の5月です。なお、試験の費用負担(財源)に関しては、
各高専が独自に判断するということになりました。(高松高専では実費を学生か
ら徴収しました。)
 試験当日は、ほぼ同じ時間に、各高専の英語科教員が試験を運営しました。
(同日に数学、物理の共通試験も行われました。)試験終了後各高専から解答
データを業者に送付し、それぞれの高専に結果が返却されました。さらに、桐原
書店、および英語運用能力評価協会(ELPA)の担当者の方々のご尽力により、高専
共通試験ならではの様々なデータが集計され、各校の担当教員を窓口に配布され
ました。ただ残念ながら、具体的な結果等をここでご紹介することは出来ません。
(試験後のデータの取り扱いをどうするのかということも、難しい課題のひとつ
として浮き彫りにされました。)
 さて、試験後のフィードバックですが、各高専独自での対応のみならず、共通
試験全般に関して忌憚のない意見交換等がなされる場がもたらされることによっ
て、さらに意味のあるものになってくると思われます。実は昨年度主幹校の新担
当者(小生)の怠惰等により、そうした場を先延ばしにしてしまっておりました。
と申しますのも、8月11日から12日にかけて、たまたまこれも高松高専主幹
ですが、四国地区英語教員のFD研修会が予定されております。各高専3名程度
の英語教員が一同に介する貴重な場を少しだけお借りして、共通試験の反省や、
次回担当校への引継ぎのみならず、英語教育に直結した充実した話し合いの場を
もつことができればすばらしいのではないか、と僭越ながら考えているところで
す。
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 現代はインターネットなしでは成り立たない、と言っても過言ではありません。
e-learningの研究・開発を通じた連携も進んでいます。松江の岩田先生にお願い
しました。

(5)ITを通じた連携 ―「高専IT教育コンソーシアム」―
                 松江工業高等専門学校   岩田 淳 

1.はじめに
高専には様々な「連携」の形態があると思いますが、「高専IT教育コンソーシア
ム」という組織によるITを通じた高専間の連携については皆さんご存知でしょう
か?
「高専IT教育コンソーシアム」?と首を傾げられた方も多いことでしょう。平成
15年12月に結成され、まだ活動を始めて間もないこの組織は、まだ名前も活動内
容も認知度が低いのが実情です。しかし、「高専IT教育コンソーシアム」に参加
している高専48校の連携により、現在、教材コンテンツ開発、流通の促進、著作
権についてのガイダンス等、積極的に活動を進めています。
今回は「高専IT教育コンソーシアム」(以下「ITコンソ」という)運営委員の立
場から、ITコンソによる連携の目的、活動内容、ならびに今後の課題について紹
介し、今回の「連携」をテーマとした話題の参考にして頂きたいと思います。

2.ITコンソの目的、組織、連携の形態
ITコンソは、高専間、あるいは独立行政法人メディア教育開発センター(以下
「NIME」という)をはじめとする他の教育・研究機関との連携によって、高専の
教育通信技術基盤の整備・改善、メディア教育用資源の充実、IT教育・遠隔教育
を推進することを目的に、機構「教育・FD委員会」の下に設置された組織です。
参加は各国立高専の任意ですが、平成15年11月発足時36校だったのが、現在では
全国立高専の9割に近い48校に参加校が増えています。
参加校には、担当者が1名置かれ、ITコンソ活動の連絡調整に当たっています。
また、運営を円滑に行うために、全国8つの地区ブロックごとに2校の幹事校が
置かれ、幹事校の担当者が運営委員として運営委員会に参加し、ITコンソの活動
計画を協議しています。この運営委員会には、メディア教育を研究する教員、情
報処理担当教員、専門学科の教員、筆者のような英語教員といった様々な分野の
教員がいます。それぞれの分野でITを活用した教育実践を行っている教員が、高
専全体のIT教育推進をテーマに協議を行い、活動を行うということは、同じ専門
分野の教員が集う学会とは異なり、非常にユニークな連携の形態だと思われます。
ITコンソは、他の教育・研究機関とも連携を行っています。特に、メディア教材
開発に関する技術と、その効果的な利用・流通についてノウハウと経験を持つ
NIMEとは、協力体制を整え、高専間で共同利用する教材コンテンツ開発において
は、技術面、財政面での支援を受けています。また、NIMEが事務局となり、IT教
育推進による高等教育の資質向上を目的とする「IT教育支援協議会」にITコンソ
も参画し、「工科系大学教育連携協議会」、「産学バーチャルユニバーシティコ
ンソーシアム」、「4大学連合複合領域コースIT化コンソーシアム」といった大
学や研究機関によるコンソーシアムと情報交換や協議を行い、共同でフォーラム
の開催、ニューズレターの発行といった活動を行っています。

3.ITコンソの活動内容
 ITコンソでは、運営委員会に「IT教育企画・調査・研究部会」、「コンテンツ
開発部会」、「教材流通部会」の3つの部会を設置し、それぞれの部会で次のよ
うな活動を行っています。

(1)「IT教育企画・調査・研究」部会:
・今後の高専のIT教育に資する企画・立案を行う。
・「IT教育支援協議会」に所属する他のコンソーシアムとの連携を図り、情報交
換を行う。
(2)「コンテンツ開発」部会:
・高専で共通で利用できる教材コンテンツを開発する。
・メディア教育開発センターの既存工学教育教材のデジタル化に協力する。
・高専で利用されている教材・補助教材のメディア化を行う。
(3)「教材流通」部会:
・ITコンソのホームページ、メーリングリストを開設し、コンソーシアム参加高
専間の情報交換、及び広報活動を行う。
・教材流通に伴う著作権問題を協議する。

4.ITコンソの成果
ITコンソは、本格的な活動を始めてまだ2年目であり、その存在を高専教員に十
分認知される域には到底達していませんが、これまでのITコンソの活動の中で
「連携」による成果のいくつかを紹介します。

(1) 「ITコンソ」ホームページ開設とIT教材の紹介
「高専ITコンソーシアムホームページ」(http://kosen-it.jp/)を開設し、
「ITコンソ」の活動に関する情報公開とともに、IT教育に関する研究会の情報、
高専における様々な分野のIT教材の紹介とリンクを行っています。また、運営委
員の一人が開発した「教材共有システム」の活用により教育素材共有の推進を図
っています。
(2) メディア教材開発
ITコンソで教材コンテンツ開発プロジェクトの公募を行い、選出した教材をNIME
の協力を得て開発を行っています。記念すべき第一号となるプロジェクトには、
皆さんご存知の岐阜高専の亀山太一先生を代表とするグループのCOCET3300が運
営委員会で採択され、NIMEの協力を得て昨年度開発されました。COCET3300は、
亀山先生を代表とする複数の教員の連携によるコンテンツ開発の成功例としてIT
コンソにおいて、高く評価され、今後の効果的な運用が大いに期待されています。
COCET3300については、NIMEにサーバが置かれ、試験的運用が4月から始められて
いますが、バグの修正をしながら今後本格的な普及促進のため、リーフレットの
作成等の準備が進められています。今月開催されるe-learningワールド(東京ビ
ッグサイト)でもNIMEによって出展が予定されています。
今年度は、弓削高専の長尾先生を代表とするグループの「ソフトウェア開発にお
けるプロジェクト管理とプレゼンテーション」教材開発プロジェクトが採択され、
現在開発の準備に入っています。
(3) 複数の高専による共同プロジェクトの推進
高知高専を研究代表校とする12高専で、現代的教育ニーズ取組支援プログラム
(通称:現代GP)へ申請を行い、「創造性豊かな実践的技術者育成コース」の開
発を目指しています。採択されるとコンソーシアム活動の目玉となる大きなプロ
ジェクトとなります。不採択の場合でもITコンソとして事業を展開する可能性を
探っていく予定です。

5.今後の課題
 ITコンソは活動を推進していく上で、いくつか課題を抱えています。
まず、「高等専門学校情報処理教育研究委員会(以下「専情委」という)」との
連携を強化する必要があります。ITコンソがIT教育教材(ソフト)開発と流通促
進を担い、専情委が情報処理教育施設整備(ハード)の充実を担うという、IT教
育を推進する上で車の両輪のような連携ができれば、IT教育推進の大きな原動力
になると思われます。
ITコンソ参加校で共同利用できるLMS(Learning Management System)の開発も
重要な課題です。Web-CT、Blackboardに代表される市販LMSが大学等で利用され
ていますが、年間で数百万円のライセンス取得のコストがかかるため、高専が単
独で導入することは困難となっています。教材を高専間で流通させるには、高専
独自のLMSの開発が急務となっています。

6.おわりに
コンソーシアム(consortium)という言葉は Encarta(R) World English
Dictionaryでは次のように定義されています。
  combination of organizations for common purpose: an association or
  grouping of institutions, businesses, or financial organizations,
  usually set up for a common purpose that would be beyond the
  capabilities of a single member of the group
 この定義にあるように、ITコンソでは、各高専に点在する有益な教育資産を、
共有の資産として流通させるとともに、単独の高専では開発できないような教材
コンテンツを共同開発することを目指しています。高専においても個性化が叫ば
れ、高専間にも競争原理が導入されつつあります。各高専がそれぞれ特色ある教
育を行うことはもちろん必要でしょうが、高専全体がその存在価値をアピールす
るには、各高専の取り組みとともに、高専間が連携することで高専教育の資質向
上に努めることが不可欠だと思います。ITコンソは、COCETのように、その一助
となることを願っています。
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 まだまだ続きます。執筆者中「紅一点」、福井の瀬川先生です。
タイトルにある「KKN13」とはそのグループ用のメーリングリストをKKN13
「(科研)KaKeN(費研究グループ平成)13(年度)」と名付けたことに由来し
ます。


(6)KKN13のメンバーになって
                 福井工業高等専門学校   瀬川 直美

 「プロジェクトを組んで、高専の英語教育について一緒に研究してみたい人は
いませんか?」こんな主旨のメールが、COCETのメーリングリストから流れてき
たとき、内心、「やってみたい!」と思った。研究代表者は、私が初めてCOCET
デビューをした発表で、「厳しいコメントをしてきた、ちょっと苦手な」某高専
の先生だったが、何度かCOCETや他の学会会場で顔を合わせる度に、研究や英語に
関しては厳しいけれど、実はとても温厚で、思いやりの深い方だとわかってきた
ところでもあった。しかし、自分がプロジェクトメンバーに加わったとして、貢
献できることはなく、ただ迷惑をかけるのみというのはわかりきっていたので、
興味はあったが手を挙げることは控えていた。どこのどんな先生が手を挙げるの
か、気になりながらプロジェクトメンバーが発表されるのを待っていた。
 しばらくすると、「プロジェクトメンバーに立候補してくれない場合は、こち
らからお声をかけるので、そのときは断らないでください」というようなメール
が流れ、「人数足りないんだ、それならとりあえずの埋め合わせで、私でもいい
かな」なんてちょっと気持ちが揺らいでいたとき、なんと!この私にお誘いのメ
ールが届いた!私を選んだ理由をあとから聞いて、自分に誇りをもてるような理
由ではなかったものの、これまでも「運」と「縁」を何よりも大切にしてきた。
もちろん、プロジェクトメンバーとして参加させてもらうことにためらいはなか
った。
 メンバーは、北は北海道から南は九州までの13高専の英語教員。プロジェク
ト代表者のお陰で、1年間だけだったが科研費もつき、メンバー初の顔合わせが
目的の第1回目の会議が東京で行われた。その日のことははっきり覚えている。
何と息苦しい空気の流れる一日だったことか・・・夕方に会議が終わると、誰も
お互いに誘い合うことなく、それぞれの帰路へとさっさと戻ってしまったことは、
今思い返しても不思議である。
 平成13年度の1年間は、「高等専門学校における英語教育の現状」を調査す
ることが研究の目的だった。(アンケート調査にご協力いただいた先生方、あり
がとうございました!)この研究を基盤にして、平成15年度に、今度は3年間
の科研費を獲得することができ、同じメンバーによる継続研究がスタートした。
1年間のブランクの間、全員が集まることはなかったものの、KKN13のメーリン
グリストは、実に活発だった。ちょうど高専が独法化される前という時期でもあ
り、各高専が変化していく情報をいち早く知ることができ、自分の高専の現状と
照らし合わせながら、励みになったりもしたものだった。
 今思うと、このKKN13は、高校でもなく、大学でもない、高専という特殊な学
校に勤務し、しかもそこでの「英語教員」であるがゆえに、こういう結びつきが
生まれたのかなという気がする。メンバーは、旅好き、温泉好き、「サケ」好き
(???)が集まっているので、全体会議はあらゆる土地で開催されているが、そ
こに「旅情にゆっくり浸る」時間はない・・・夕飯の後は、夜中まで白熱した討
論が展開される。会議室の窓から、抜けるような青い空を見て、めったに足を運
ぶことのできない土地にいるのになあと思わずため息をついてしまい、ひたすら
会議が終わる時間や帰りの列車の時間を待ちわびる私は、やっぱりこのプロジェ
クトメンバーとしての自覚が足りないのであろうか・・・。電子メールのお陰で、
これだけ全国に散らばった先生方ともコミュニケーションを図ることが可能とな
り、共同研究を進めていくことができる。でも、「顔を合わせる時間」がどれだ
け次の仕事に大きく関わってくるかは、メンバー全員が承知している。どんなに
メールが充実していても、コマめに電話でやりとりしていても、結局顔を合わせ
て話すことに勝るものはない。だから、どんなに校務に追われていても、「家族
サービス」をないがしろにして家族からブーイングが出ても、何とか時間をやり
くりして、みんなが集まる。クリスマス・イブも、そして世間が新しい年を迎え
る準備に追われている年末も集まり、数分を惜しむように話をする。
 メンバーとしてこのプロジェクトに参加させてもらって、本当にいろいろな刺
激を受け、さまざまなことを勉強させていただいている。けれども、私は、いっ
たいどれだけこの研究プロジェクトに貢献できているのだろうと考えると、メン
バーでいることにすごく後ろめたさを感じているのも事実だ。でも、今、こうい
うふうにして勉強させてもらい、ちょっとだけ私より長く生きていらっしゃる人
生の先輩でもあるメンバーからいろいろなものを「盗み」取り、いつか自分が別
の形で恩返しできればいいかなと思うようにし、図々しくKKN13のメンバーに居
座らせてもらっている。学校の同僚や家族には言えない愚痴を、「高専」という
同じような環境にいるからこそわかってもらえる仲間が、勤務以外の場所にいる
ことに本当に感謝している。今年が、平成15年度から始めた研究の最後の年と
なってしまうが、このメンバーと築き上げてきたものは、かけがえのない宝物で
あり、KKN13のメンバーの「きずな」は、途絶えることはないと確信している。
そして、これまで共同研究してきたことが、各個人によって、何らかの新しい形
で継続研究され続け、高専の英語教育に何らかの光を与えていくことができると
思っている。
 もし、今、自分ひとりで研究することに不安や行き詰まりを感じたならば、京
都観光も兼ねて、夏に開催されるCOCETの研究大会に足を運んでみませんか。そ
して、ちょっぴり勇気を出して、「一緒に研究しませんか。」と声をかけてみま
しょう。きっと、自分と同じ思いをしている高専の英語教員が待っているはず!
 KKN13のメンバーに加わってから、自分の所属する「福井高専」という枠を越
え、「私は高専の英語教員である」という自覚をもてるようになった気がする。
それに加え、高専で英語の教員をしていて本当によかった、と心から思えるのも、
KKN13の仲間のお陰である。最後に、かけがえのないKKN13の仲間に、心から感謝
の気持ちを述べて結びとしたい。「貴重な知識とすばらしい時間を与えてくれて、
本当にありがとうございます。」
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 次は、つい最近まで高専英語教員だった工藤先生にご登場願います。
大学に異動された今、「連携」の可能性をどう感じていらっしゃるでしょうか?

(7)むずかしい?連携
                  北海道工業大学   工藤 雅之

 昨年、高専から工業大学に異動した。高専の英語教員から工業大学の情報分野
の専門学科教員への転身であった。これまで、英語教員として関わって来た「コ
ンピュータと英語教育」の学際領域の研究を進めてほしいということであったが、
自分の中に生じた「高専と大学の連携」は、なかなかしんどいながら、やりがい
のあるものであったので、その一部を紹介したい。
 私の場合、高専と言っても工業高専ではなく、全国で唯一のデザイン高専に所
属していたため、工業大学とのギャップは大きく感じられた。しかしながら全国
の工業高専の多くは、工業大学の専門領域やその分類が似ており、学生の性別バ
ランスなどの点でも共通点が多いことから、学校の雰囲気もとてもよく似ている
と聞く。
 高専と大学は、15歳~20歳と高専が後期中等教育の学齢を請け負う部分に違い
があるが、専攻科を有する高専との比較では、同じ学齢を請け負う高等教育機関
である。そのため専門学科間では、研究交流などで連携が見られる。共通の学会
や出身大学の研究室などを通して連携研究の可能性は広いようだ。特に私の所属
する情報や工業高校などでの後期中等教育からの専門教育が一般化している土木
や建築などの分野では、工業高専と工業大学の連携は一般的であるようだ。
 さて、われわれの関心事、英語教育における連携はどうであろう?
言語教育の歴史を見ても、技術の進歩が言語教育に与えて来たインパクトは大き
く、LL教室、ラジカセ、ヴィデオ、コンピュータと続いた技術革新の波は、言
語教育の世界に少なからず影響を及ぼしてきた。現代の英語教育においても、コ
ンピュータなどのマルチメディア機器が重要なパートを占めつつある。また、コ
ンピュータなどを使ったLL(MM)教室の構築などは、各高専でも一般化して
おり、今後ますます高専の英語教育に大きな影響を与えるであろう。
 そこで、より重要になると思っているのが、英語教育と専門教科(特に情報分
野)の直接的な連携だ。私の所属する情報デザイン学科では、最新技術を使った
システム開発や人工知能の応用など英語教育に直接活かすことのできる技術が周
囲にゴロゴロしている。この技術力を使わない手は無い。私と同僚達の専門領域
を考え合わせただけでも、以下のような連携例が進行中だ。

・英語学習ドリルなどを電子化するための研究(進行中)
・最新の web関連技術を応用した言語学習システムの開発研究(進行中)
・人工知能の関連技術を英語学習装置の制御に応用する研究(検討中)
・自然言語処理の形態素解析技術を文法学習に応用する研究(検討中)
・Learner Centered の学習装置の学習シュミレーション研究(ゼミ生と検討中)
・グラフィック情報と意志疎通に関する研究(ゼミ生と検討中)

 学科の専門教員は、多くの技術をノウハウとして蓄積しているので、われわれ
が考えたことも無かった技術応用のヒントを与えてくれることがある。立ち話か
ら、新しい研究テーマが生れてきたこともあるくらいだ。つまり彼らの知識は、
既存の技術や新しい思想をより効率的に英語教育に対して活かす事ができるかも
しれないのだ。このような小さな学際連携から、大きなものへ発展させることに
よって、言語教育や応用言語学の考えだけでは打破できなかった壁を打ち破るこ
とも可能になるかもしれない。
 しかし、この連携における最大の問題点は、みんなそれぞれの研究や校務で忙
しく、連携や学際研究に意欲的な専門教員は、どこを探しても多くないことであ
ろう。同様に英語教員も多忙である。実は私も、その高い壁に今ぶつかっている。
高専のみなさんの場合は、どうであろうか?高専での専門教育と一般教科の連携
は、ある意味で「とても難しいもの」であるようにも見えるのだが…。みなさん
の高専ではどうであろうか?
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 最後は、今や世界の英語教育界で注目を集める上智大学の吉田研作先生です。
国内的にもここ10年以上文科省の数々のプロジェクトにおいて指導的役割を果た
して来られました。我々のCOCET大会でも平成14年度に特別講演をお引き受
け頂いたことは記憶に新しいところです。学外活動だけでも超ご多忙な吉田先生
ですが、学内的にも数々の要職に加え外国語学部長を今年度から兼任され「超超
ご多忙」になっています。以下の書き下ろし投稿は
http://www.bun-eido.co.jp/aste/aste51.html#a と併せてお読み頂ければと思
います。

(8)EFL、ELF、EILの現状と課題
                    上智大学   吉田研作

 日本の英語教育は、ここ数年大きく変化してきた。文部科学省の「『英語が使
える日本人』を育成するための行動計画」が施行され、公立の中学高校の英語教
員6万人の全員研修が全国の都道府県で始まり、最初の2年間で約2万人弱の教員
が研修を受けた。また、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール
(SELHi)の指定により、過去3年間で80数校が英語教育に特化したプログラムを
実施してきた。4年目にあたる本年度は、100校を超える学校が指定され、独自の
英語教育プログラムに取り組んでいる。
 このような傾向は、高校だけではない。大学レベルでも、文科省が実施してい
る現代GP(グッド・プラクティス)の中の「仕事で英語が使える日本人」を育成
するためのセクションでは、大学を卒業してから社会で英語が使えるようになる
ためのさまざまなプロジェクトが提案され、実施され始めている。また、2004年
度には、全国の公立小学校の92%以上の学校で何らかの形で英語が教えられてい
たことが文科省の調査で分かった。
 日本では上記のような様々な試みがなされているが、世界に目をやると、さら
に色々なことがわかってくる。例えば、TESOL国際研究財団(TIRF)が1999年に
アメリカで設立されたが、TESOL自体が基本的には北米中心であるのに対して、
TIRFの大きな目的は、英語教育に関する研究(ESLよりもEFLの研究)を北米だけ
でなく、AILAのように、できるだけ広く、世界中に広げることにある。また、
2003年には、Asia TEFLが設立され、韓国釜山で最初の国際会議が開かれた。今
年度は、第3回国際大会が北京で開かれるが、この3年間で、会員数は4000人弱ま
で伸び、会員の出身国は、アジアだけでも30数カ国に及んでいる。この学会は、
アジアという特定の地域で英語教育に携わっている教師に、国際会議での発表と
研修の場を与えようというもので、今年度の北京での第3回大会には、1000を超え
る応募があり、既に発表が決まっている500弱の発表以外にもできるだけ多くの人
に発表の機会を与えようと、現在、スケジュールの調整が行われているほどであ
る。なお、Asia TEFLの名に恥じないよう、アジアの色々な地域で今後、国際会
議を開くが、2006年は日本(福岡)そして、2007年はマレーシアのクアラ・ルン
プールで開催されることが決まっている。
 このような動きの背景には、英語が国際語として認知され、単なる英米の母語
であるだけでなく、正に世界の共通語になっていることが挙げられる。Jenkins
らは、世界で英語がインタラクションとして使われている場面の2/3はノンネイ
ティブ同士である、というが、Asia TEFLでは、正にノンネイティブ同士が英語
でコミュニケーションをしているのである。わざわざAsia TEFLを作ってアメリ
カ英語やイギリス英語の研究をする必要はない。
 しかし、国際語としての英語というものがどういう特徴を持ったものなのかに
ついては、まだまだ分かっていない。そのため、世界の様々な地域で実際に英語
が何のために、どのように使われているかを研究し、それを基に、国際的な場面
で使える英語をどのように教えるかを考えなければならないのである。
 このような傾向は、今までのように教科書等に示されたネイティブ英語にノン
ネイティブが自らを適応させようとしてきたことから、英語を、国際的な場面で
それを必要としている、ノンネイティブに適応させようとすることへの180度の方
向転換を意味しているといえるだろう。国際的な場面で使える英語を考えた場合、
今までのように、単にテキストを頼りに、ネイティブ・スピーカーの英語を基準
に作られた「正しい」英語を学んでいたのでは、いつまで経っても使える英語が
身につかないことは、みんな経験してきている。 しかし、我々は英米人になる
ために英語を学んでいるのではない。我々は、国際的な場面で英語を使って、自
分の考えや意思を伝え、世界中の人とコミュニケーションをしたいのである。で
は、このような国際語としての英語の教育の特徴は何だろう。それは、教科書に
頼りすぎることなく、実際に英語をコミュニカティブに使う授業を展開すること
である。国際語としての英語というものは客観的に「構造」として捉えることが
できるものではなく、英語を実際に使うことによって、その時その時に作られる
ものなのである。
 今、世界では、EFLをELF(English as a Lingua Franca)やEIL(English as
an International Language) に置き換える傾向が見られる。EFLはEnglish as
a Foreign Language だから、あくまでも教室の中の、英米をモデルとした(外
国語)として捉えた言い方だが、ELFやEILは、英語を英米から切り離した、独自
のものとして捉えた言い方である。日本の英語教育も、今後益々この方向に進む
必要があるだろう。

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「大阪府立工業高等専門学校の近況報告」  大阪府立高専 西野 達雄
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(1)学校紹介
 本校は今年度より1学科制として再スタートいたしました。「総合工学システ
ム学科」として、定員200名を一括募集しています。入学生は、3学年までに工
学に関する幅広い基礎知識・基本技能を学び、4学年より6つの専門コース(機
械システム、システムデザイン、メカトロニクス、電子情報、物質化学、環境都
市システム)に分かれて各専門分野を深めていくことになります。社会や産業構
造が複雑化する中、いくつかの異なる分野の知識・技術を「複合・融合」する力
が求められる、という発想の下に生まれました。
 しかしその陰には、大阪府の逼迫する財政事情を背景にして、入学志願者数の
低下を理由に本校の存廃問題が取り沙汰され、府から抜本的な改革を求められる
という抜き差しならない事情がありました。数年にわたって、本校のあり方がカ
リキュラムを中心に激しく議論された結果、徹底して「ムダ」を省いたカリキュ
ラムに変貌し、(専攻科を新設したにも拘わらず)教員定数は99名から77名にま
で削減されました。英語科もご多分に漏れず、来年度より1人減の5人体制にな
ります。
 大変な時代です。この新カリでは、学生は開講科目をすべて履修・修得するの
が原則です。それで卒業単位数ピッタリなのです。資格・検定試験による単位認
定以外には基本的に余分な単位は存在しません。これは学生も大変ですが、教員
も大変です。そう安易に不合格にできません。原級留置者が続出してしまいます。
だからと言って、そう安易に合格にもできません。認証評価やJABEEというハー
ドルが待ち構えています。結局は、補習や再試験などによる手当てを手厚くし、
高専卒業生として社会(産業界)が要望するminimum essentialsを全学生に保障
するという気構えが私たち教員に要求された形となりました。産業界の高い要望
と入学生の学力低下とのギャップをいかに埋めていくかが今後の大きな課題とな
りますが、英語科スタッフ一同力を合わせて取り組んでいきたいと考えています。

(2)英語科紹介
 私は平成3年に着任しましたが、その当時の英語研究室の印象は、
“homelike”という言葉がビッタリきます。研究室が4人部屋で、どの先生も温
かく、仕事の話から雑談まで気軽にできる家族のようでした。8年ほど前に定年
を迎えられた山下暁三郎、岡田公栄両先生は優しい眼差しの祖父母(ゴメンナサ
イ!)のようでしたし、昨年退職された長岡慧先生は厳格な父親のようでした。
現在は、コーヒーを淹れてゆったりと会話を楽しむ時間的余裕こそなくなってき
ましたが、和やかな雰囲気はスタッフが半数入れ替った現在も基本的には変わっ
ていません。むしろ、学校を取り巻く状況が厳しくなった分だけチームワークが
増しているようにすら感じられます。
 現在の家族構成をごくごく簡単に紹介いたしますと、
 ・柴  茂: 一家の大黒柱。教務からハイテクまで豊富で確かな知識で信頼
        抜群。一般科目文系主任。
 ・増木啓二: 繊細な感覚で、教員にも学生にも優しく接する有徳の人。仏語
        にも精通。剣道部顧問。
 ・川村珠巨: 学生への面倒見がよく、慕ってくる子が連日千客万来。カナダ
        への留学経験を持つ。
 ・児嶋寿子: 海外での生活や留学経験が豊富で、発音が美しい(らしい)。
        一児の母としても奮闘中。
 ・知念淳史: 今春院修了のさわやかボーイ。英語学専攻。地元沖縄での就職
        を希望。期限付講師。
 ・西野達雄: バーニーズと山歩きと妻を愛する好青年(中年?)。禁煙が
        (今年も)目標。英語科主任。
 最後になりますが、16年間使用したLL教室を今秋ようやくCALL教室に更新する
運びとなりました。ご多忙にも拘わらず、仕様書等に関する相談に快く応じて下
さった先生方に、この場をお借りしてひとまずお礼を申し上げたいと存じます。
また、このようなご指導が得られるのも、偏にCOCETネットワークの賜物だと痛
感しております。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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第29回研究大会のご案内
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期 日:平成17年8月17日(水)~19日(金)
  会 場:京大会館(〒606-8305京都市左京区吉田河原町15-9)
  主 催:全国高等専門学校英語教育学会(COCET)

第1日 8月17日(水)
  15:30 ~ 17:00 理事会(211号室)

第2日 8月18日(木)
  11:00 ~      受 付  (210号室)
  12:30 ~ 13:00  総 会  (210号室)

  13:10 ~ 14:25  特別講演  (210号室)

講 師   柳瀬陽介(広島大学)
        演題「私たちは「考えて」いるか」

「英語教育の達人をめざしてセミナー」でもご活躍の柳瀬先生です。
講演をお聞きになる前に是非一度「英語教育の哲学的探求」
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/
をご覧下さい。

  このあと16:30まで各研究発表

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編集後記
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まず最初に、ご多忙中にもかかわらずご執筆下さいました先生方、誠にありがと
うございました。非常に充実した内容の原稿を頂き、私自身大変勉強になりまし
た。それぞれの記事を読ませて頂いて感じることは「連携」するためには各自に
「プラスアルファ」の努力が必要だということです。ただその努力が必ずしも報
われる保証もありませんし「連携」するのは口で言うほど簡単ではありません。
しかしそれでも「連携」しないと、一番迷惑を被るのは学生達です。If we
teach today as we taught yesterday, we rob our children of tomorrow! 
--- John Dewey(最近「達セミ」のメルマガでよく使われるフレーズです。) 
読者の皆様、最後までお読み頂きありがとうございました。「読んで良かった」
と少しでも思っていただけたら、それに勝る喜びはありません。

                 (編集  北九州高専  大谷 浩)

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