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COCET通信        第9号 (04.4.15)

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COCET通信        第9号 (04.4.15)
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目次

 巻頭言 「COCET第27回京都大会開催される」
                         詫間電波高専 平岡禎一
 大会参加者から 「COCETに初めて参加して」
                         苫小牧工業高専 小野真嗣

 特集 電子辞書をめぐる Pros and Cons

    「電子辞書と印刷辞書の使い分けを提唱」
                          富山商船高専 長山昌子
    「ヘルスバンドと電子辞書」
                        大阪府立工業高専 西野達雄
    「紙?電子?」
                        北九州工業高専 木田裕美子
    「電子は、紙を超えるのか?“Digital Divide”はそこまで来ている?」
                          函館工業高専 竹村雅史

 エッセイ 「ことば、ことば、ことば・・・」
                          札幌市立高専 松井美穂

 高専紹介 「秋田高専英語科教官の横顔」       秋田工業高専 小林貢

 編集後記                     札幌市立高専 工藤雅之

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「COCET第27回京都大会開催される」
             詫間電波高等専門学校 平岡禎一(COCET副会長)

 例年どおり国専協の後援を受け,去る8月23日,24日の両日、京大会館を会
場に、第27回研究大会が開催された。賛助会員を含めると、約90名の参加者が
あった。理事会、総会に引き続き、16件の研究発表,特別講演,意見交換会,
およびフォーラムがおこなわれた(理事会、総会の内容については、『論集』
を参照されたい)。
 研究発表の内容は多岐に渡った。共通点の多い教育・研究環境でありながら
も、会員各位が独自の視点を持ち、さまざまな課題に取り組んでおられること
を再認識した。例えば、鈴鹿高専英語科の「新入学生学力診断検査を実施して
」と題した発表では、新課程で学んだ中学生を迎えるうえで、綿密な学力診断
が必要不可欠であること、そして英語科が一致団結して教育活動を展開するこ
との大切さを教えていただいた。
 特別講演は福井大学の大下邦幸先生にお願いし、「コミュニケーション能力
育成のためのアプローチ --- メッセージを重視する ---」との演題で熱弁を
振るっていただいた。ご講演では,まず「コミュニケーション活動」とはどの
ような性格を持っているのかを聞かせていただいた後、具体的な教材を例にと
りながら、伝える「内容・メッセージ」がいかに重要であるかを教えていただ
いた。アンケート調査の結果なども披露して下さり、単に「事実」をつかむ課
題よりも、学習者の「意見・考え」を重視する課題のほうが、学習者は「やり
がいがある」と感ずることなどを教えていただいた。この場をお借りして、大
下先生には改めてお礼申し上げます。
 講演の後、意見交換会をおこなった。ちょっとした手違いのため、懇親会会
場に場所を移すこととなり、機器などの設定がうまくいくかどうかヒヤヒヤし
たが、そこは武田先生はじめ、皆さんのお陰で無事おこなえた。交換会では、
まず青山先生が、業者テストを使って新入生の学力を診断した結果について、
いつもながらの綿密な発表をしてくださった。文法項目によっては、極端に習
熟度が低い項目があるなど、改めて、新指導要領で学んだ学生をどう指導して
ゆくべきかを考えさせられた。
 次に森先生(鹿児島高専)が全国英語弁論大会の実施を呼びかけられた。こ
の件については、過去、主に九州地区からの提案として、幾度となく話題とな
ってきた。その実施意義については高く評価する声がでていたものの、地区大
会を実施している地区が半分にとどまっていることや、日程、予算などの点か
ら、実施は困難であろう、という声が大勢を占めていた。にもかかわらず、森
先生が全国大会の実施を提案された理由は、一言で言えば「今が絶好のタイミ
ングである」ということであった。森先生の熱弁に、情熱に、心を動かされた
のは、決して私一人ではなかった。大会後、僭越ながら、全国大会実現の可能
性をさぐる「世話人会」を発足を呼びかけたところ、小澤、穴井、嵯峨原、お
よび南の各先生方が名乗りを上げて下さった。この世話人会での討議内容につ
いては、今後のメーリングリストなどで注目していただきたい。
 2日目の最後は「フォーラム」で締めくくった。例年に比べ、参加者が多か
ったのは,今回の3つのテーマが、どれも「重量級」であったためであろう。
「単語プロジェクト」(亀山先生)、「TOEIC」(井上先生、大谷先生)、そ
して「JABEE」(武田先生)。それらの中でも、やはり最も熱の入った意見が
交わされたのが、JABEEについてだった。「なぜ英検ではなく TOEICなのか」
「400点では駄目なのか」など、次から次へと質問(半分、抗議)が出され、
大いに盛り上がった。そして、それらの質問に対し、一つ一つ的確、かつ迅速
に回答を返される武田先生の奮闘ぶりには,心底、脱帽した。他の先生方も同
様であるが、その並々ならぬご尽力に対し、深く感謝の意を表したい。
 次回の研究大会は、来る8月21日、22日の両日、東京・代々木のオリンピッ
クセンターで開催される。会員諸氏がさまざまな想いを込めて集い、それぞれ
の戦場へ一年分の元気を持って帰る・・・。また熱い夏になりそうで、今から
待ち遠しい。

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「COCETに初めて参加して」 苫小牧工業高等専門学校 小野真嗣

 私は2003年4月に苫小牧高専に赴任して、8月に開かれたCOCETに初め
て出席致しました。会場玄関を通り受付に向かって感じたCOCETの第一印
象は、「笑いがある」「なごやか」「家庭的」・・・、こんな感じでした。他
の学会では、受付は会場校の学部生や院生が担当していることが多いですが、
皆ピリピリして表情が硬く、対応も事務的で温かみがありません。しかし、C
OCETの受付は、福井高専の原口先生が丁寧に対応して下さり、苫小牧より
一人で参加して心細かった私をホッとさせてくれたことを今も覚えています。
しかし安堵感も束の間、私はもっとビックリしてしまうことがありました。学
会の会員全員で撮る参加記念の写真撮影です。今まで、このような体験はなく、
勝手がわからず、流れにまかせて動いていました。そんな振る舞いから、もし
かすると、回りからは動きが鈍い人に思われてしまったかもしれません。(^^;
 今回、各研究発表を通して英語教育関連の色々な勉強をさせて頂くことがで
きましたし、全国様々な地域から来られた先生方とお話ができたことは非常に
価値があり、私にとって実りのある学会参加となりました。学校的・個人的に
も、参加してよかった点が数多くありましたが、3点に絞ってお話したいと思
います。1点目は、専攻科の運営とJABEE対応の件です。
 JABEEは高専という学校組織だけでなく、工学系の高等教育機関であれば、
これからは避けては通れないハードルの一つになろうと思います。JABEE対応
に向けた準備の一つに国際化云々という項目がありますが、高専としては一般
教科の英語科が中心となって対応していかなければならない部分であるかと思
います。既にJABEE認定された先輩校となる宮城高専の武田先生による講演は、
認定準備をしなければならない苫小牧高専の今後の対応において、学生の英語
力の評価法、TOEIC対応をどう行うのか、TOEICの数値目標、TOEICと英検の相
関など具体的、かつ丁寧に教えて頂いたことは、今後の準備への貴重な情報と
なりました。
 2点目は、高専生の英語力強化に向けた取り組みの一つとして、各高専が行
いつつある、外部の英語学力試験導入についてです。英語能力判定テストやA.
C.E.、あるいはTOEIC IPなど各高専では、着々と取り組んでおられるようです。
基本的には大学入試がない高専生に動機付けとなるテストの導入、JABEE対応、
TOEIC対策がきっかけとなっていますが、この点についても実施時期、実施学
年、テスト代捻出等、具体例を通して勉強させていただくことが多々あり大変
感謝しております。
 最後3点目として、これは個人的な関心でもあるのですが、COCETでは
COCET 2200 という語彙表を作成しているという点です。私は北大大学院出身
で、北大語彙表を作成された園田勝英先生のもとでコーパスに基づく語彙・文
法研究を行ってきました。語彙表は現在では北大語彙表の他に、JACET 4000、
JACET 8000、杉浦リスト、ALC SVL 12000、ALC SIL 6000、海外においてはOgd
en のBasic English、A Study of TEFL Vocabulary など様々な語彙表があり
ます。当時勉強不足のためCOCET 2200の存在を知りませんでしたが、COCE
Tにおいても教育向けの語彙表が製作されていることは、技術者養成機関で限
られた英語の単位数しかない高専の環境を考えると非常に意味深いことだと思
います。同時に自分も微力ながらより一層の高専教育充実化に向けてお手伝い
させて頂ければとも思いました。
 以上、思ったことを整理もせずに、ただ書き綴ってしまいました。新米です
のでわからないことだらけですが、一生懸命頑張ります! これからも宜しく
お願い申し上げます。

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特集 電子辞書をめぐる Pros and Cons
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1)賛成
「電子辞書と印刷辞書の使い分けを提唱」 富山商船高等専門学校 長山昌子

 私は「電子辞書の授業時での使用」を推奨する立場から、アンケートによる
結果と私が授業に出ている国際流通学科(ここでは文系と呼ぶ)の2・3年生
の2クラス、商船学科、電子制御工学科、情報工学科(ここでは理系と呼ぶ)
の1年生の3クラスの実態を踏まえて、電子辞書と印刷辞書を学習場面により
使い分けることを提唱したいと思う。
 富山商船高等専門学校では、文系・理系とも入学者全員が入学時に印刷辞書
の英和辞典と和英辞典を購入することになっている。5年間通して使用するの
で掲載語彙数が一番多い辞書を採用している。しかし、文系クラスの授業では
電子辞書を使用している学生も多い。そこで、授業に出ている文系2~3年生
の2クラス80名を対象に、電子辞書と印刷辞書の使用状況を調査する目的で、
平成15年12月4日と5日に「辞書に関するアンケート」を実施した。この文系学
科ではビジネス・情報・語学を主に学ぶ。一般教科としての英語は理系の約1.
6倍多く履修することになっていて、専門的に英語を学ぶ機会に恵まれている。
男女比をみると、文系クラスの1~5年生までを平均してもクラスの約87%が
女子で、低学年・高学年とも英語学習への動機が強い学科である。アンケート
結果から以下のような実態が浮かび上がってきた。
 辞書を紛失したという3名を除く77名が印刷辞書を持っていて、印刷辞書の
所有率は96.3%である。印刷辞書が主に使用される場所は自宅で、81%の学生
が自宅でより多く印刷辞書を使用している。電子辞書の所有率は83.8%である。
電子辞書の普及率が非常に高い。内訳は2年生の電子辞書の所有率が93.2%で、
3年生が72.2%である。電子辞書が主に使用される場所は学校で、80%の学生
が授業に電子辞書を持ち込んでいることがわかった。使用目的を問うてみたと
ころ、使用頻度が高い順に、「単語の意味が分からないとき(87.5%)」「日
本語を英語に直すとき(71.3%)」「つづりを確認するとき(62.5%)」とな
った。つまり、授業時に単語の意味やつづりが分からないときの強い味方は電
子辞書であることがわかる。同様に印刷辞書の使用目的を問うてみたところ、
使用頻度が高い順に、「単語の用法を確認するとき(68.8%)」「日本語を英
語に直すとき(48.8%)」「単語の意味が分からないとき(45%)」となった。
印刷辞書を使用するのは主として自宅であることから、学生は単語の用法を確
認しながら宿題をし、予習をしていると推測される。

 では、学生にはどのような宿題が課せられているのだろうか。文系クラスの
1~2年生は、総合英語、英語会話、英語表現の3科目を週8時間、3年生は
週6時間学んでいる。英語表現や英語会話の授業では、英文エッセイや英文ス
ピーチの原稿を書く宿題が1~2年生ともに課せられている。各学生には年2
回のスピーチが割り当てられるので、英文エッセイ(150語~200語)と英文ス
ピーチ(およそ150語程度)のライティングを合わせると、およそ年7~8回
程度の英作文を書くことになる。3年生ではやや少ない。2~3年生のアンケ
ート結果では、英文エッセイであれ、英文スピーチであれ、日本語から英語に
訳しなおす過程での電子辞書の使用率が71.3%、印刷辞書の使用率が48.8%で
ある。つまり、学生は手っ取り早く電子辞書を使い英語で言いたい単語(71.3
%)を探し、つづりを確認(62.5%)し、どうその単語を繋ぐのか分からない
時や、その単語の用法を確認する時には、印刷辞書を使用している(68.8%)
という実態が推察される。
 そのことは自由記述の学生の声からも裏づけされる。8人の声を以下に記載
する。「印刷辞書は調べるのに時間がかかるけれども電子辞書に比べ、例文や
熟語が多く、単語について詳しく調べられるので、エッセイを書くのに便利」
「電子辞書は早く引けるし、どこにでも持っていける軽さがいい。しかし、用
法の説明など簡潔にまとめられすぎて、理解しづらい。」「印刷辞書は読み物
のような感じで、例文がおおく、他の単語とのつながりが良く分かり、他の単
語の勉強ができる。電子辞書は、例文が少ない。しかし英英辞書、英和辞書と
ジャンプできるので、同じ単語について色んな角度から調べられる」「ほぼ印
刷辞書は使わない」「電子辞書は電池が切れると使えない」「印刷辞書は見や
すいが重い。電子辞書は軽くて手軽だが、関連単語を覚えにくい。」「印刷辞
書は詳しい内容で単語も豊富だが、調べるのに時間がかかる。電子辞書は例や
熟語がすくない」「電子辞書は持ち運びに便利だが、電池代がかかるし、盗ま
れやすい。」
 このアンケート結果は、印刷辞書にも電子辞書にもそれぞれ良さがあること
を示している。電子辞書の良さは「早く単語がひける(97.5%)」、「見やす
い(68.8%)」である。一方、印刷辞書の良さは「内容が詳しい(87.5%)」、
「内容が分かりやすい(71.3%)」である。電子辞書と印刷辞書の使い分けを
提唱する理由がここにある。つづりを確認する時に印刷辞書を使用する学生が
18.8%しかいないことから、いかに電子辞書が手軽につづりを確認したり、意
味を確認したりするのに便利かということがわかる。
 ところが、問題は、印刷辞書が重いことを理由に授業に印刷辞書を持ってく
る学生が大変少ないことである。例えば、私が授業に出ている1年生の理系3
クラスの英語表現の授業を例に取ってみよう。入学時に全員購入したはずの印
刷辞書をクラスに持参している学生は数名に過ぎない。平成15年11月28日と12
月2日に3クラスを対象にアンケートを実施したところ、印刷辞書を使ってい
ると答えた学生は27.3%である。3クラスの電子辞書の所有率は22.2%であり、
学生らはその電子辞書を使っていると答えている。合計すると、印刷辞書ある
いは電子辞書を使用している学生は49.5%である。つまり、3クラスの約半数
の学生は宿題として課せられた場合には自宅で辞書を調べていると思われる。
しかし、授業時に印刷辞書を持っている学生は数名で、電子辞書の所有率も22.
2%なので、この3クラスで授業時に出てきた単語の意味を聞いても答える学生
が少なく、「わかりません」と学生は平気で答える。「辞書で意味を調べなさ
い」と指示しても、机上には辞書がない。例文を出し未知語の意味を推測させ
ようとしても語彙がそれほど豊富ではない。未知語の意味を確認させるのに時
間がかかる。辞書を持って来なさいと言い続けても持ってこない学生に根負け
して、私が持っている辞書10冊程度を教室に運ぶが、それでも辞書を手にして
いる学生は十分でない。電子辞書でさっと答えを探し、発表してくれるほうが
クラス全体の雰囲気が前向きに保たれるのにと思う。「電子辞書の授業時での
使用」を推奨したい理由がここにある。
 それでは、わざわざ印刷辞書を新入生全員に購入させなくてもいいのではな
いかという意見もあろう。しかし、新入生の教科書代が決して安くはないこと
を念頭に置くと、語法に関わる用例や派生語などの記載が豊富な印刷辞書を手
始めに持たせるのが妥当であると考えられる。ただし、中学校では週3時間し
か英語の時間がないので、今後、辞書に十分親しんでいない学生が入学すると
思われる。そこで印刷辞書の引き方指導を1年生で徹底し、辞書の引き方に慣
れさせる。その後、印刷辞書は自宅で使ってもらうことにする。授業では電子
辞書を紹介し、使用してもよいと提案してはどうだろうか。その時期は2年生
あたりが適切ではないだろうか。というのは、アンケートによれば、1年生の
理系3クラスの電子辞書を持っていない学生のうち33%が購入したいと希望して
いて、そうすれば理系学生の約半数が電子辞書を持つことになるからである。
「電子辞書は授業時に、印刷辞書は自宅で」という使い分けを提唱する理由が
ここにもある。
 近い将来、電子辞書にもCD-ROM並みに音声がついてくれば、発音を確かめ
ることができ学習効果が上がるだろうと思う。これは、印刷辞書にはない利便
性である。詳しい情報を求め、用例を確かめるには印刷辞書を。手早く単語の
意味を確認したい時は電子辞書を。辞書の使い分けを提案する。もっとも辞書
引きの必要性を感じさせる授業をすることが必須条件である。


2)反対
「ヘルスバンドと電子辞書」 大阪府立工業高等専門学校 西野達雄

寅次郎:ヘエー、電子やってんの、あいつ。今の世の中は何て言ったって電子
だからな。
(寅次郎、はたと思い出し、みやげ(実は的屋としての商売品)のヘルスバン
ドを取り出す)
寅次郎:オバちゃん、ちょっとこれ、はめてみてくれないかい?・・・電子応
用のヘルスバンドってやつだ。こりゃ、電子の力でもってねえ、体中の毒素と
いう毒素が全部追い出されてって、新陳代謝がスーッと良くなるんだよ。断っ
とくけど、これはガセネタじゃあないよ。論より証拠。はめてみりゃわかるん
だ。つまり、この電子のツブツブみていなもんがね、手首の血管からスウーッ
と体内に入って、五臓六腑を駆けめぐるんだよ。つまり、血行をよくするわけ
だ・・・ね、そら、オバちゃん、何となく体がラクーな気持ちになってきただ
ろう。フウーッと、ほら。
オバちゃん:ああ。うん、うん!

 ご存知「男はつらいよ」の記念すべき第一作にあるやりとりである。二十年
ぶりに故郷、東京葛飾柴又の草団子屋に帰ってきた主人公、車寅次郎(渥美清
)は、妹のさくら(倍賞千恵子)がどうしているかを、育ての親である伯父伯
母にたずねる。さくらは長い歳月の間に立派に成長し、丸の内の会社の電子計
算機係に勤めている、と寅次郎が聞かされた直後の会話がこれである。

 この寅さんのヘルスバンドは、もちろん「ガセネタ」であり、金メッキした
安っぽいゴムの腕輪に過ぎないのであるが、仮にこれが寅さんの言うとおりだ
としたらどうだろう。「電子のツブツブ」が直接的に身体に作用して、効果が
出るとしたら・・・。実は、それに近いものが「電子レンジ」である。食品を
チンするときには「電子のツブツブ」が食品に直接作用して、温めている(ら
しい)。

 さあ、「電子辞書」はどうか。「電子のツブツブ」が指先からスウーッと体
内に入り、脳内を駆けめぐって、英語力を高めてくれる・・・なんてことは聞
いたことがない。つまり、電子辞書の「電子」は辞書を動かすだけの役割を与
えられているのであり、電子レンジの「電子」とは明らかに意味合いが違う。
ユーザーに対して直接的な作用を及ぼさないのである。すなわち、高専生であ
れ誰であれ、電子辞書を手にしただけでは英語力は向上しない。紙の辞書と同
じく、それをいかに有効に活用するか、がポイントだと思う。

 つまり私は、「(これからの)辞書は電子辞書!」という一元的な考え方に
対する「反対」なのである(3台の電子辞書を愛用している手前、純粋なアン
チ電子辞書の文章は書きづらい・・・)。単純に、紙の辞書もあり、電子辞書
もある、でよいのではないか。それぞれの長所・短所は当然あろうが、それは
各辞書の特徴として学生に説明し、一定の範囲内で自由に選択させる、それで
どうだろうか。入学生に一種類の英和辞典を(英語科として)推薦しても、そ
れとは異なる辞書を使う学生が何人か必ずいる。学習に支障がない範囲内であ
れば、こちらもとくに咎めはしない。要は、(とくに初学者は)辞書の種類で
はなく、その辞書を日々活用するか否かである、と思ってのことである。満員
電車での通学を余儀なくされる学生にとっては、より小さく、軽い電子辞書は
大きなメリットであろう。一時の経済的負担を最小に抑えたいと考える親思い
の学生には、紙の辞書が(今のところ)断然魅力的であろう。上級生になって、
英英辞典や類語辞典などいくつかの辞書を参照したい、という必要を感じたら
(感じてくれ!)、そのときに電子辞書を新たに購入するというのもアリだろ
う。

「英語学習には何て言ったって『電子』だからな」と押しつけることには、と
りあえず反対である、と申し上げて拙稿を括りたい。


3)懐疑的
「紙?電子?」 北九州工業高等専門学校 木田裕美子

 ここ数年、授業中、学生に辞書で単語の意味を確認させると、電子辞書を持
っている学生だけが反応し、画面に出てきた単語の意味を読み上げる姿を多く
見るようになった。電子辞書を持っていない学生といえば、紙の辞書を、机の
上においてはいるものの誰も手に取ろうともしない。3年前は、学生が使う電
子辞書も、名刺より少し大きいくらいのもので、英和辞書1つにワードゲーム
が入っているくらいのものであった。しかし、昨今では、はがき大の電子辞書
に、何種類もの紙の辞書の内容が内蔵されている。電子辞書をもっている学生
に購入の理由を尋ねると、携帯に便利だから、という回答が圧倒的に多かった。
次に、電子辞書の選択基準は、学校で推薦している辞書がはいっているかどう
かが主で、「おまけ」の部分は、6か国語会話集などの語学関係でおもしろそ
うだからと思ったものを購入している。

 紙の辞書と電子辞書の双方を使っている体験から、紙の辞書と電子辞書の特
徴を
主に

 (1)携帯性
 (2)一覧性
 (3)検索速度
 (4)価格

の4つの観点から比較した。

 まず、1)携帯の便利さについては、重さと辞書を広げる面積の2点で比べ
ると、電子辞書の方が使いやすい。最近の1つの電子辞書の重さは、220g前
後で、紙の英和中辞典1冊の約4分の1である。6年前に購入した電子辞書 (S
ONYのDATA DISCMAN) は、確かにかさばってはいたが、『リーダーズ・プラス
』と『和英中辞典』の2冊が入っているので、紙の辞書を2冊携帯するよりは
るかに軽かった。現在の電子辞書は、1つの電子辞書の中に最低でも6つの辞
書がはいっていて、はがきより少し小さい大きさになり、薄く、軽量化してい
る。しかし、小型なだけに、外見から予想するより重く感じる。次に、辞書を
広げる際に、電子辞書は、手の上でも操作が可能である。紙の辞書だと、多く
の場合机の上に広げざるをえない。辞書を収納する際にも、占有面積が違う。

 2)一覧性については、視界の広さと、目線の動きの2点について比較する。
視界の広さの点では、紙の辞書の方が広い。一目で、2ページ分が目に入り、
必要な情報が目にはいることに加え、その周辺情報も目に入る。机の上が広い
と、大きな辞典だけでなく、何冊もの辞書を広げられ、視界は、さらに広くな
る。電子辞書では、引いた単語の後方の語のいくつかは見える。さらに「訳/
決定」キーを押すことで確定すると、その語の意味に直に到達する。次に、目
線の動きについては、紙の辞書では、自分の速度で移動でき、電子辞書では、
機械の速度に従わねばならない上に、残像現象がある。

 3)検索速度については、電子辞書の方が速く目的の語に到達できる。
探したい語にまっすぐに到達できる上に、最近の電子辞書は、つづりを最後ま
で入力しなくても、一字一字入力していくと、該当する語が徐々に表示される
ようになっていて、その中から目指す語を選択するだけでよい。また、電子辞
書についている機能の内「履歴」「ヒストリー」を使うと、今までに検索した
語が記録されているので、新たに、つづりを打ち込む必要すらない。紙の辞書
では、ページをめくることに加え、アルファベットの順番を思い出しながら語
を追っていく作業が必要となる。ただ、電子辞書の場合、単語の意味は、すぐ
に表示されるが、用例・解説は、その関連のキーを押さないと表示されない。

 4)価格の点については、内蔵されている辞書の数を考慮すると、最近の電
子辞書の方が割安感はある。内臓されている辞書は、英和・和英の両辞典に加
え、英英辞典、『広辞苑』、漢語辞典、古語辞典など、多彩である。2003年12
月現在で、27冊の辞書に5種類の分野別小辞典が入り、かつ、カードを差し込
むことで、さらに辞書を増やせる電子辞書も発売された。この辞書の価格は26,
800円である。問題は、破損した時の修理費と、わずかではあるが、電池代な
どの維持費であろう。

 紙の辞書と電子辞書を大きく4つの点から比較してきたが、次に実際に私が
紙の辞書と電子辞書を使っている時に感じたことを述べる。

  辞書を使う場所が広い場合、すなわち、机の上や周辺に辞書を広げられる
空間があれば、まずは紙の辞書を使っている。時間に余裕があり、じっくりと
調べる場合である。その際には、1冊だけではなく数種類の辞書を使用する。
紙の辞書は、ページをめくる間、探している語に行き着く前に寄り道をするこ
とも、同じ語を繰り返し調べることもしばしばある。高校時代の恩師が「辞書
は、ひくものではありません。読むものです」と口癖のように言われていたが、
その通りだと思う。紙の辞書だと目で1行1行を丁寧に追って行くことができ
る。他方、電子辞書を使うと、求める語にすぐに到達できるけれども、望まな
い限り周辺の語に寄り道をすることはできない。また、電子辞書に付随してい
るジャンプ、用例、成句、熟語などの機能を使えば、必要とする情報にまっす
ぐに到達できる。よそ見をしている暇すらない。

 最近の電子辞書には、英語辞典と国語辞典を基本として種々の辞典が収めら
れている。英語関係の辞書では、『ジーニアス』の英和、和英辞典が圧倒的に
多い。ほかには、英和辞典として『リーダーズ・プラス』『研究社英和・和英
中辞典』、『スーパーアンカー英和・和英辞典』『ニューセンチュリー英和辞
典』『カラーエポック英和・和英辞典』など、英英辞典として、『ロングマン
』『オックスフォード』、国語関係では『広辞苑』、漢和辞典、古語辞典、『
四字熟語辞典』などが収められている。最近、英語関係では、『リーダーズ・
プラス』に『ジーニアス英和大辞典』が入ったものも発売された。

 問題は、一つの電子辞書の中に収められている全ての辞書を利用するかどう
かである。辞書を購入する立場からすると、自分に必要な辞書だけが内蔵され
ていればよい。従って、割安だとはわかっていても、ほとんど使わない、あれ
ば便利かなと言った程度の辞書の分まで、余分に払わせられている感じを抱く
ことは否めない。技術がますます進歩していくにつれて、電子辞書に収められ
る辞書も多様化し、機能もさらに充実していくであろうことを考えると、いつ
購入すべきか、価格も視野にいれながら判断しなければならない。
 紙の辞書は、自分の必要な辞書だけを購入することができる。また、紙の辞
書は、歴史の古い分、それぞれの専門分野において種類が豊富でもあるので、
選択の範囲が広い。

 さて、電子辞書の機能を使うと、手軽にゲーム感覚で単語を引くことができ
る。テレビゲームや携帯電話に慣れている学生にとっては、電子辞書を使うこ
とは、なんの抵抗も無いようである。英語と国語の辞書が一緒に入っている辞
書では、英単語を説明している日本語の意味がわからないと、すぐにジャンプ
機能を利用して、意味を確実に把握している。

 指導する側としては、手軽にひける利点を活かし、わからない単語が出てき
たら、直ちに辞書を調べる習慣をつけさせるにはよいとは思う。また、英作文
の指導には、ちょっとした単語を和英辞典で検索し、示された英語の使い方を
英和辞典で再確認させるのには便利である。

 電子辞書を利用する上で、懸念されることは、先に述べたように、つづりを
最後まで打ち込まずとも、該当する語とその周辺の語が表示されるので、正確
なつづりを確実に覚えることができるであろうかということである。
 紙の辞書の場合、一度ひいた単語に印をつけ、書き込みをし、二度目に同じ
単語をひいた時に、自分の記憶の不確かさを痛感し、その痛みで単語を覚える
こともある。

 さて、私は紙と電子辞書のどちらを使っているかというと、主は、紙の英語
辞典である。読み物の内容によって、大辞典、医学辞典、英英辞典、図解事典
などを使いわけるか、同時に開いている。その他、フォークロア関係や文法関
係など電子辞書にはまだ収められていないものは、もちろん紙の辞書を使う。
しかし、読む対象と時間的な余裕によっては、電子辞書の『リーダーズ・プラ
ス』とCD-ROMのOEDも使う。また、電子辞書を携帯用にも、ちょっと忘れた単
語を引くときにも使う。学生たちにも、読む対象によって種々の紙の辞書と電
子辞書をそれぞれの内容で使いわけるコツを覚えてもらいたいものである。


4)導入済み校の例
「電子は、紙を超えるのか?“Digital Divide”はそこまで来ている?」
                    函館工業高等専門学校 竹村雅史

1.はじめに
 実を言うと私は電子辞書の登場には懐疑的であった。デジタル製品が隆盛を
極めながらもアナログが健在で、未だにオーディオや腕時計等では、その存在
価値が見直され、再認識されるに至っているからであった。だから、書籍辞書
が電子辞書によって席巻されるなどとは思ってもみなかった。個人的にも、書
籍辞書が持つ上質の紙の手触りが好きだったし、自分の手元に置いておくこと
でなにか安心感みたいなものを感じとっていた。
 しかし、電子辞書の効用を見て見ぬふりをしても、それでは済まされない状
況になってきた。本校で社会人を対象に英語の公開講座を実施した時のことで
あるが、参加者に辞書持参と事前に連絡しておいたのだが、なんと7割の受講
者が電子辞書を持参してきた。しかも、年齢は50代の方たちであった。「電子
辞書は教室には馴染まない」、「電子辞書はやっぱり書籍辞書に比べまだまだ
だよ。」と囃子たてていた時代はもう過ぎ去ったとその時実感した。
 時代と共に、ものは変化し発展していく、企業は我々が考えている以上に、
進化したものを世に送り続けている。我々は、それを拒絶するのではなく、う
まくそれと向き合っていけば、人生はもっと楽しいものになっていくのではな
いか。そう考え始めている。今回は、本校での電子辞書の導入とその後の経過
について述べてみたい。

2.本校での導入の経緯
 毎年、本校では5人の英語科の教員が協議の上、新入生向けに英和、和英辞
書を推薦という形で平均5社位の辞典を店頭に置いてもらっている。一昨年、
辞書選定の際、電子辞書もこれに含めて新入生に提案してはどうかと会議で提
案がなされ、電子辞書も選択肢の一つとして採用された。本校の英和辞典の採
用基準としては、語数は約10万語、5年間使用に耐えうるもの、という基本線
があった。電子辞書はこれをクリアし、おまけに和英もついていた。あとは値
段であったが、社会人になっても、会社でのデスクワークに使えることを想定
して長い目で見れば、悪くはない、しかも、広辞苑がついているので、そちら
の方が社会人になってから重宝するのではと(勝手に)考え、初めての試みで
あったが、書籍辞書と一緒に並べてもらうことにした。買うのはあくまでも新
入生(親も含め)が決めることで、選択はユーザーに任された。
 私個人の考えでは、今の学生は携帯やゲーム機のキータッチに慣れているの
で、書籍辞書のページをめくるよりは、早く引けるのではという考えがあった。
また、あくまでも推測で全く根拠がないのであるが、高専のイメージと“電子
”がうまくかみ合うのではないかと思った。さらに、英文読解の際に障害とな
るのはいつも単語なので、これを素早く引けるようになれば、ある程度授業の
進みは速くなり、いい影響がでるのではとも考えた。その上さらに、自分で辞
書を引くことが苦にならなくなれば、自分で英文に向かっていく態度が形成さ
れ、autonomyを育てることにもつながっていくのではと、これまた勝手に都合
のいいように解釈した。

3.予期せぬ出来事
 電子辞書は高価なので(1万8千円程度)、2,3割の新入生が購入するく
らいだろうと予想していた。ところが、新学期、最初の授業で辞書を引くよう
に指示を出したら、なんと、クラスの半分以上が電子辞書を持参して来ていた。
後で、わかった数字であるが、200名中128名が購入していた。
 電子辞書が少数派であると予想したはずが、多数派になり、授業の方向を変
えなくてはならなくなった。というのも、辞書を引かすと時間差が出てきたの
である。中学校では、検定教科書の巻末に語彙が全て掲載されているので書籍
辞書を引くのは新入生にとって初めてであり、時間がかかった。それに対し、
電子辞書はピンポイントに単語にたどりつけるので、時間を要しなかった。そ
の場の光景は書籍辞書派と電子辞書派が引く速さで明暗がはっきり分けられた。
私は敢えて、書籍辞書派に配慮し書籍辞書を手に持ち辞書の引く手順を学生に
説明したが、空しい空気は消そうにも消えなかった。教室内での一種のデジタ
ル・ディバイドの発生だった。
 新品の辞書の箱から辞書を手にとり、引き始める学生が次第に肩身の狭い思
いを抱くのではないかと危惧するようになった。残念でならなかったが、間違
いではなかった。夏休み明けくらいから、授業開始時に机上に置かれているの
は、電子辞書であり、書籍辞書はロッカーに入ったままの学生が目につき始め
た。英作文をさせる時にそれが顕著になった。電子辞書では、いとも簡単に和
英があるので英単語を引き出せるが、書籍辞書ではそうはいかなかった。電子
辞書を持っている友人に貸してもらったり、聞いたりして探すようになってい
た。
「基礎学習にこそ書籍版辞書が好適」、「ページをめくる面倒な作業が大切だ
」、「紙は読めるが、電子は読めない」、「訳語しか見なくなる」、「例文の
検索効率が劣る」様々な電子辞書に対しての危惧や警戒が頭によぎったが、だ
からといって書籍辞書を支持する根拠にはなりえない現実がそこにあった。つ
まり、基礎学習であればこそ、辞書に手が届く状況でなければならないし、ペ
ージをめくる煩わしい作業から解放され、英語嫌いを少しでも抑えられるなら
それに超したことはない。ジャンプ機能で日・英語をさまよい、見る辞書から
読む辞書にかわり、おまけに漢字まで覚えることもでき、正しい日本語の語彙
がすぐに手にとってわかる。これが、一台でできてしまう。
 静 哲人(関西大学)氏は「紙の辞書に変われば、例文や語法をみるとは思
えません。紙でよく活用していた学生は電子ではもっと早く引き活用します。
紙では訳語さえひかなかった学生が、電子では訳語だけは手をのばして引くよ
うになる。」(EFLJ web site,2003,10)と述べている。

4.データはどうか?
 柳瀬陽介(広島大学)氏の報告(失われつつあるリテラシー:今、言語教師
ができること、2003)によると土持 薫(広島大学学生)氏による実験で、1
分間に紙の辞書と電子辞書で何語ひけるかを計測したところ、紙:2.4語、電
子:5.1語で、3分間では、紙:7.3語、電子:15.4語という結果がでた。これ
は、武田 淳(宮城高専)氏の3ヶ月間に渡る書籍辞書と電子辞書の検索語彙
数の実験データ(COCET第27回研究大会研究発表平成15年8月)とほぼ一致して
いた。つまり、同じ時間内に、ほぼ2倍の語彙数が引けることになる。言い換
えれば、電子辞書の検索スピードをもってすれば、英文の読み進めるスピード
もあがり、読解がはかどることになる。
 本校でのアンケート結果からは、次の3つのことが判明した。電子辞書を使
用経験のない2年の学生(40名)に電子辞書を一ヶ月間使用させ、紙と電子辞
書のどちらかがいいか尋ねたところ、70%が「断然電子辞書がいい」、24%が
「どちらかというと電子辞書がいい」という結果が出た。辞書を引く頻度を尋
ねたとこと、47%が「とても増えた」、41%が「どちらかというと増えた」と
答え、学習意欲について尋ねたところ、11%が「とてもわいた」、54%が「少
しわいた」という結果であった。
 以上のことから、概ね学生には電子辞書が受け入れられ、辞書を引く回数も
増え、学習意欲もそれに伴って増加したことが伺える。更に、詳しく調べてみ
ないとわからないが、検索スピードのアップと学習意欲がどの程度まで関係が
あるかは今後の研究に委ねなければならない。

5.まとめ
 これまで、私が述べたことは書籍辞書が劣っているとか、悪いということを
いっているのではなく、電子辞書の登場によって、現実を直視しなければいけ
ない段階に来ていることをここで述べたかったことである。実際に手に取り使
ってみて、電子辞書の価値を判断し、初めて学生に指導、助言ができるのでは
ないか。電子辞書の評価はこれからだが、常に進化していることだけは、明ら
かである。
 最後に、データがないのであくまでも推測であるが、英文理解での電子辞書
の利点を挙げるとなれば、一つは、意味理解での過程でストレスの発生を抑え、
読み進める意欲が生まれ(英文に対する抵抗感の解消)、二つ目は読解スピー
ド(引く早さが約2倍)が増し、最後にそれに伴って読解量が増し、スキム・
リーディング等に適していると考えられる。


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「ことば、ことば、ことば・・・」 札幌市立高等専門学校 松井美穂
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 この頃世間で評判の悪いもの、それは英語を話せない・使えない日本人を量
産し続けた英語教育。そして耳に入ってくるのは、その使えない英語を生み出
した理由の一つは、文学で英語を教えようとしたからだ、という意見。とする
と、英会話を熱心に学ぶこともなく、また英語教育が専門でもなく、文学を、
一応研究し続けている私のような教員の存在意義はなんだろう?今回、「文学
研究と英語教育」というテーマを与えられ、書くべき事も見あたらず、煩悶し
た挙げ句ぶち当たったのは、このような根源的な(?)問いでした。

 先日機会があって、ロンドンのデザイン系大学でサマーコースの授業を受け
て来ました(札幌市立高専はデザイン専門なので、主旨は専門英語の実際にふ
れる、ということです)。コースには他にも日本人女子大生がいたのですが、
その会話のレベルは(彼女には大変申し訳ないのですが)、「なるほどやっぱ
り日本では受験戦争に勝っても、英語はそうしゃべれるようにはならないのだ
な」と納得してしまうレベルでした。大学では日本文学を専攻した(卒論は夏
目漱石)という彼女は、新学年からロンドンの大学入学を目指し、平行して普
通の英会話学校にも通っていました。そのクラスでは、韓国人、台湾人、中国
人がいて、やはり活発に話すのは日本人以外のアジア人達で、だから彼らはど
んどん英語が上達していくのだ、とのこと。そんなある日彼女は仲の良い韓国
人のクラスメートに「君は大人しくしているけれど、一体何のためにロンドン
に来ているのだい?」というようなことを言われショックを受けたと私に語り
ました。でもそれに対し「私も私なりに、彼に対して言うべきことがあるから
きちんと意志を伝えてみる」と宣言し、翌日「彼も分かってくれました」とさ
わやかな笑顔で彼女が私に語ってくれた時には、「日本の女子大生もなかなか
やるじゃん!」、とこちらもうれしくなってしまいました。英語力がなかなか
伸びないと悩みながら「でも私はやっぱり日本語が好きなんです」とはにかみ
ながら語る彼女に、私は「ことばを愛するあなたはきっとことばに対する感性
が優れているはずだから、英語だって大丈夫」と励ましになるのか分からない
言葉を置いて帰国したのでした。

 またまた話は飛びますが、我が家に先日子供向けの英会話ビデオの売り込み
の電話がかかってきました。電話の向こうの女性は、「文法は大きくなってか
らでもいいとして、発音は幼児のうちにやらないとネイティブの発音は身に付
きません!!」と力説し、それは、「小学校での英語教育導入も具体化しつつ
ある今、ここで英語をやっておかないとお宅の子供さんは落ちこぼれますよ!
!」というような勢いででした。なるほど、そりゃあ発音は良い方がいいし、
今からなら例のLとRの発音も聞き取れるようになるかもしれない。でもネイテ
ィブの発音って、いったいどの発音のこと?などと、つらつら考えていたある
日、新聞に興味深い、ある大学生の投書をみつけました。それは、アルバイト
先のお店で遊んでいた幼稚園児がorangeという語を見事な発音で言うことがで
きるのに、実際の果物のオレンジを見せたらそれが何だか分からなくて驚いた
という内容でした。

 言葉を学ぶ、教えるということはどういうことなのでしょうか?ここ札幌で
絵本屋を開き、ご自分でも熱心に絵本の普及活動をしていらっしゃるある方が
こんなことをおっしゃっていました。「言葉とは人と人を結ぶ豊かな環境をつ
くる意味がある。」英会話ができるようになるには、発音が良い方がいいし、
LとRの発音が聞き取れた方が良いに決まっている。でも言葉の習得とはもちろ
んそれだけではないわけです。かくして、言葉にこだわる文学研究を続ける私
は、英語教育においてもマイナー(とも言える)側面、つまり「言葉が作り出
す世界の豊かさ」の伝授に自分の方向性を見出そうと決意するに至ったのでし
た。


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「秋田高専英語科教官の横顔」 秋田工業高等専門学校 小林貢
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 秋田高専英語科は5人のメンバーで構成されています。以下は2004年1月現
在における各教官の自己紹介です。(順番は名字の50音順)

海上 順代(うながみ のぶよ)
〔担当 1年英語 英語LL演習 科学英語 英語購読〕
 今年から秋田高専の英語科の講師になりました海上順代です。専門はアメリ
カ文学で、アメリカ南部文学なかでもウィリアム・フォークナーの作品を中心
に研究してきました。英語教育に関しましては、理系の学生向けの英語の教材
の研究に積極的に取り組んでいきたいと思います。又、映画を英語のリスニン
グの教材として使う授業の助手をしてきたので、映画などのメディアを使った
英語教育も研究していきたいと思います。

金子 淳(かねこ じゅん)
〔担当 5年英語 4年独語・5年独語・専攻科独語購読〕
 英語と独語を担当。専門はアメリカ文学とドイツ文学。ドイツ文学からアメ
リカ文学へ転向した変り種。最近は、CALLなど、コンピューターを使った英語
教育に取り組んでいる。柔道部顧問。

桑本 裕二(くわもと ゆうじ)
〔担当 2年英語 4年英語 専攻科英語〕
 専門は、言語学、音韻論です。英語を、他の国、民族のことばと同じく世界
の中の一言語であるということを、常に学生に意識させる授業を目指していま
す。担当は英語ですが、放課後には集まってくる学生たちにフランス語、イタ
リア語、中国語などを教える勉強会をして楽しんでいます。

小林 貢(こばやし みつぐ)
[担当 1年英語 3年英語 専攻科英語]
 本校英語科主任。イギリス文学(シェイクスピア)に関する研究と実践的英
語コミュニケーション能力の育成に関する英語教育に取り組んでいる。学生主
事補(学生会担当)、少林寺拳法部顧問。

菅原 隆行 (すがわら たかゆき)
[担当 1、3、4年英語 英語LL演習 現代英語演習]
 説明は丁寧だが、試験問題の難しさは半端ではなく、学生からよく「鬼の菅
原」と呼ばれる。英文解釈の授業の時に訳す順番を間違えると、質問責めにあ
って大変な目にあう。専門は英語学(生成文法理論)。寮務主事補を担い、英
語科ではTOEICを担当。吹奏楽部顧問。


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編集後記 札幌市立高等専門学校 工藤雅之
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今号のCOCET通信の編集依頼を受けたのは昨年の8月京都での出来事、東
京都立高専の山田豪先生からだった。予測さえもしていなかった編集依頼だっ
たので、とても面食らったのを今でも覚えている。「ホントにボクが編集して
いいんすか?」

過去のCOCET通信では、毎号いろいろな特集が組まれ、われわれ高等専門
学校の英語教育に携わるものにとって、示唆深い話題が提供されている。毎号、
綴られている記事に対して教員経験の浅いボクは、読みながらひざを叩くこと
が何度もあった。「そんな充実した特集が、ボクのような若造に組めるのだろ
うか?」

突然の編集依頼の後の数ヶ月間は、どんな特集を組んだら良いか、どうすれば
皆さんに読んでもらえるような編集内容になるか、いろいろと英語教育に関す
るトピックに想いを巡らし、先輩の諸先生方にも相談した。ボクのような若造
が、英語教育に関して偉そうなことを言っても始まらない(ボクは、普段偉そ
うな事を言っているようだが…)などとと思い、なかなか妙案は浮かばなかっ
た。

そんな折り、京都のCOCET大会に協賛されていたCASIOの方から連絡が来
た。京都の学会のブースで「ボクは電子辞書反対派です」と大いに息巻いて言
っていたところ「そんな人に電子辞書を使ってもらいたい」との殺し文句。

「ふう~ん、これが電子辞書か…。結構軽いなぁ。」
次の日の授業の予習をやってみた。パチ、パチ、パチ、トンッ。
「割と日本語の入力もラクなんだなぁ。」「手軽だなぁ…、んっっ。」

「ううっ、これは簡単だ!なんでこんな便利な機械を今まで使わなかったのだ
ろう!」
「いままで反対だ、なぁんて言って、恥ずかしいなぁ…。」次から次へとこと
ばを引いてみる。「簡単だ、しかも他の辞書にも飛べるぞ!」
「これってずいぶん昔から紙の辞書でやりたくても、できなかったことじゃな
いかぁ!」
「これなら、英語の勉強が捗るなぁ。辞書引きのプレッシャーが格段に低くな
ったぞ。」

こうして今回の特集記事の編集内容が決まった。

今号のCOCET通信は、多くの先生方に協力をいただいた。特に、今回の特
集に多少のまとまりがあり、高専の英語教育に対して何らかの示唆を与えられ
るものになったとすれば、それは協力をいただいた先生方の協力のお陰に他な
らない。お忙しい中、今号の通信に執筆してくださった先生方には、深い感謝
の意をこの場を借りて表したい。ありがとうございました。
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