COCET通信        第6号 (2002.5.24)

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COCET通信        第6号 (2002.5.24)
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目    次

巻頭言
    学力低下の根本的な原因         都立高専   山田 豪

特集  学力低下について考える
 1 英語科教育における必要な学力とは何か   旭川高専   十河 克彰
 2 英語力の低下を嘆く前に          仙台電波高専 竹内 素子
 3 新しい中学校の英語教科書と学力低下の関係について
                        鶴岡高専   伊関 敏之
 4 学力の低下があるとすれば、学生の学力低下はどの辺に現れているのか。
   その原因は何か。             高知高専   西村 淑子
 5 高専生の英語学習への動機つけのための一方法
                        鹿児島高専  嵯峨原 昭次
高専英語科紹介
 航空高専英語科紹介

若林先生のこと
 1 若林俊輔先生を偲んで           東京高専   村井 三千男
 2 若林先生を偲ぶ              大分高専   穴井 孝義
 3 あゝ俊輔さん!         神戸松蔭女子学院大   青木 庸效
 4 「COCETの歩み」から

COCET事務局から
                         長野高専  小澤 志朗

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巻頭言
  学力低下の根本的な原因            都立高専  山田 豪

 敗戦直後にすべての中学生が外国語を学ぶことができるように制度化が実現
された。ここでは英語は選択科目として置かれたが、このときに既に英語につ
いては事実上の必修化が実現されたと考える人たちがいる。ほとんどすべての
子どもたちに「英語の窓」が開かれたことは質的に新しい世界が現れたことを
意味し、戦前においては予想もつかないことで、男女共学などまさに劇的にい
ろんな出来事がおきた。この新しい世界の生き生きとした息吹を教科書の上で
実際に示して見せたのは"Jack & Betty"初版であった。
 「質的に新しい世界が現れた」とは、それまでの生き方を急激に変えるよう
に迫られたことをいう。外国語教育については、戦争直後からこの意味合いを
担って制度として実施されていることを忘れてはならないであろう。
 この点では、外国語教育は子どもたちが持っている内的な希望と意欲をいか
にして引き出すかを問う性格を根本的に持つ教科である。しかしそういう新し
い世界を求めようという希望と意欲がいつの間にか子どもたちの中から消えて
いった。それとともに、その子らの内的な活性化とは無縁な外からの利害に取
り込まれ、それに合わせるように迫られる時代へと変化していった。それが、
外的な組織の利害に基づく外国語の必修化である。別の表現でいえば、産業界
などからの要望がある面でいかに大切でも、人間を豊かにしていくこととは別
の組織の要請に対応していくことであり、外的で経済中心の要因に動かされる
ことである。先ずは現実に貼り付いて、身動きが取れない中でいかに利害に敏
になるかが問題の社会では本当の意味で生きたいという意欲は湧かない。
 外国語教育は現実の有り様を克服して新しい世界を自分のものにしたいとい
う、子どもたちが持っている内的な気持ちを教科の学習の意欲としていかにし
て引き出すかを問う性格を根本的に持つ教科である。それが学力をつけていく
上での牽引車であった。それが消えていったことが人びとと社会を貧しくし生
徒たちの学力を低下させていく原因になった。


特集  学力低下について考える

 1 英語科教育における必要な学力とは何か
                        旭川高専 十河 克彰

 時代の要請や社会の背景から、2002年度から小学校に英語教育が導入され
るが、その内容は、「国際理解」を勧める具体的な学習活動の一つと位置付け
られ、外国語(英語)によるコミュニケーション能力の育成を求めている。中
学校でも学習指導要領の改訂により、中学3年間で学習する語彙は900語と今
までより少なくなり、音声を通してのコミュニケーション能力の育成により一
層の重点が置かれるようになった。
 なるほど、海外で買い物一つ満足にできない多くの日本人観光客を見ると、
早期英語教育の実施、音声を通してのコミュニケーション能力の育成は、英語
科教育における必要な学力を育成する上で必要不可欠な方策と思われる。日本
人全員が流暢な英語を話す必要性は全く無いにしても、これからの時代は、せ
めて海外での買い物ぐらいは、買い手主導でやってもらいたいからである。
積極的な英語の使用は、小学生のときに、冒頭の「外国語(英語)によるコミ
ュニケーション能力の育成」を徹底し、小学校の英語教育を国際理解教育の一
環というよりは生活英語として指導することにより、はじめて可能になるよう
に思えてならない。というのも、カナダのイマージョン・プログラムをはじめ、
語学は早期教育と生活の中での目標言語の使用が功を奏している例が少なくな
いからだ。
 さて、高専の英語科教育における必要な学力に話題を変えるが、本校英語科
教育の主要な目標は「科学技術に関する英語文献を、辞書を使用しながらでも
読解する能力を育成すること」である。その理由の一つは、卒業後多くの学生
が英語文献を理解しなければならない状況にあるからだ。2001年度に進学し
た本校の学生は、卒業生全体の34パーセントを占めるが、進学先でかなりの
量の英語文献を読まされているようだ。このことは、就職先でも大同小異であ
ろう。先頃、日本技術者教育認定機構(「JABEE」)についての研修会が本校
であったが、その席上「JABEE」の求める英語に関する学力についての言及が
あった。それは文献の読解、具体的にはTOEIC (Test of English for
International Communication) で400点、それに簡単な意思伝達ができる
ことであった。
 結論として、英語科教育における必要な学力とは、先の小学校や中学校の英
語教育では、国民全体を対象とした基本的生活英語であり、それ以降は、その
専門性と必要性に応じた英語力ではないであろうか。したがって、高専英語科
教育における必要な学力とは、基本的な生活英語を駆使でき、技術者として必
要な科学技術に関する文献を理解できる英語能力のことのように思われる。
 最後に、現在本校では英語指導の望ましいあり方を模索する中で、SLEP
Test (Secondary Level English Proficiency Test) を使用し、学生の英語
能力実態調査及び追跡調査を行なっている。今年度からは、賛同いただける他
高専の先生方の協力を得て、調査の枠を広げていきたいと考えている。この紙
面をお借りし、先生方のご協力をお願いする次第である。


 2 英語力の低下を嘆く前に
                       仙台電波高専 竹内 素子

 「英語学ぶならいつがいい?」----- 脳科学の立場から各教科を学ぶのに最
も効果的な時期や内容などを小中高などの教育現場に助言できるようにすると
いう文科省の新方針が2月,新聞で報じられた。その成果を待つまでもなく,
どの高専でも学習者の年齢や学習環境などを考慮した英語教育が模索されてい
る。しかし,高専生は英語に弱いと言う声が聞かれる一方,JABEE の認定には
英語力の向上が重要になるという現状もある。
 近年,コミュニカティブ・アプローチに基づき中学校で帰納的に習得される
はずの文型や品詞などがよく理解できず英語が苦手だと訴える学生が増えてき
ている。事実,今年の入試で本校の英語の平均点が50点を割ったのには驚かさ
れた。中学では教科書の巻末にある語句の意味を見れば事足りたらしく,単語
の意味を英文の下にメモし,パズルのように並べ換えて和訳しようとする学生
もよく見かける。辞書を調べるだけでうんざりして英語が嫌いになるのも無理
は無い。学力の低下を嘆くよりも現状を踏まえた対応を考えなければならない。
 企業が実用的な英語力を要求するため,高専では英語学習の動機づけを各種
検定試験に求める傾向もあるように思えるが,本校では5年間という長期のス
パンを活かすため,1・2年の英語は,reading, listening, speaking を中心
とした授業と,文法の定着とその応用を中心とした授業の2種類に分け,基礎
的な英語力の養成を到達目標にしている。ある程度の言語能力が習得されつつ
ある年齢の高専生に対しては,文法事項を意識させ言語の規則性を理解させる
ことが効率的であると考えるからである。
 それでも5年間で英語の4技能すべてを習得させるには無理がある。従って,
高専の英語教育においては,学生が卒業後も各自の目的に沿った英語の自学自
習ができるような基礎力の定着を図ることがまず先決で,言語の規則性を意識
して「英語が理解できる」ようになれば,学生は多様なメディアから情報を収
集しようとし,それが学生の創造力を高めるきっかけにもなり得るのではない
かと思う。


 3 新しい中学校の英語教科書と学力低下の関係について

                        鶴岡高専  伊関 敏之
(1) はじめに
 筆者は今回のテーマについて述べる際に、関連して思いを巡らすことがある。
それはいわゆる「英語教育大論争」のきっかけとなった「平泉試案」、船橋洋
一氏を中心に提案されている「英語公用語化論」、それに今度「総合的な学習
の時間」というカテゴリーの中での「小学校からの英語教育導入」ということ
である。先の「英語教育大論争」について言えば、平泉氏は実用能力の顕在化
(つまり話す能力)を学校教育に求めているのに対して、渡部氏は英語の潜在
能力あるいは頭脳の基礎訓練(つまり読む英語)を学校教育の中心に据えてい
るという違いがあった。これは現在のコミュニケーション能力を重視した英語
教育にもつながる重要な論争だったと思う。このような背景のもとに、今回の
テーマについて考えてみたい。
 
(2) 新旧の中学校の英語教科書の比較
 手元にある東京書籍のNEW HORIZON ENGLISH COURSE の平成13年度版
と平成14年度版を比較してみると、面白いことがわかる。一つには、新は徹
底的にコミュニケーション重視の姿勢を貫いていることである(Starting Out,
Dialog, Your Turn, Listening, Reading, Writing, Reading など)。二つに
は、文法用語についてである。例えば、関係代名詞、現在完了形は新旧両方に
出てくるのに対して、不定詞、動名詞、分詞(現在、過去)などは新旧共に出
てこない。また、受け身という用語は、旧には出てくるが新には出てこない。
それから、進行形という用語は新旧共にあるが、同じ-ing形でも動名詞は出て
こないというのはなぜであろうか。以上、さっと見て気づいた点について述べ
てみた。文法用語をどこまで教えるべきかについては、いろいろ考慮すべき点
があると思うが、本質的なことではない。中学校での英語の授業時間が週3時
間であるという現状において、コミュニケーション能力をどれだけ伸ばすこと
が出来るかということが問題であろう。
 その際には、コミュニケーションということをどのようにとらえるかという
ことが重要となる。単に日常会話が少し出来るレベルと考えるのか、4技能
(話す・聞く・読む・書く)のすべてにわたってバランスよく英語力を身につ
け、総合的にコミュニケーションができるようにしようと考えるのか。後者の
方が理想的であるのは言うまでもないであろう。週3時間の授業で総合的なコ
ミュニケーション能力を育成するのは、至難の業であろう。しっかりと教える
べき文法事項を削減して、会話練習にばかりはしれば、なおさらである。つま
り、コミュニケーションを身につけさせようと本当に考えるのであれば、従来
の英語教育で行われている文法・読解・作文などとの共存をはかる必要がどう
してもあるものと思われる。そのような観点に立てば、学力低下への懸念も少
なくなるのではないか。要は、教える教師の側の発想と情熱が大切なのである
から。


 4 学力の低下があるとすれば、学生の学力低下はどの辺に現れているのか。
   その原因は何か。
                         高知高専 西村 淑子

 中学校の指導要領の改訂に伴って、英語の学力がさらに低下するのではない
かという杞憂はもちろんどの教官にもおありであろう。しかし英語の学力とは
いったい何を意味するのだろうか。筆者はこの春休みに娘を訪ねてサンフラン
シスコに行ってきた。観光バスに乗って、ワイナリーを訪問した。観光バスで
の行程、運転手が話す速い英語に耳を傾けながら、本場の英語と途中の景色を
楽しんだ。しかしである。時々ドライバーのおかしな話についていけずアメリ
カ人の観光客が大声で笑っている様がおかしくて笑っている自分に自信喪失!
合衆国に行くたびに刺激を受けるのである。私たちの中学校・高校時代はスピ
ーキング・リスニングの練習は皆無と言っていいほどの英語教育の状況の中に
置かれていた。一方、語彙力・文法・読解力を含むリーディング力においては
私たちが学生であった頃の方が今の学生と比較すれば遙かに高かったのではな
いかと思われる。それらが英語の学力だと評価されてきたのである。しかし英
語教育に携わっていない(携わっている人でさえ)私たち同年代の人たちある
いはそれ以降の年代人たちが、生の英語(現地で話す人たちの英語)にどの程
度適応してきたかあるいは適応できているか疑問である。その後、日本の英語
教育のあり方が問われ、改訂が行われ、多くのALTが英語圏から動員された。
私たちの時代の学生と比較すれば、現在の学生の方が英語圏の人たちとの会話
に躊躇なく適応できる力を身につけている。たとえ語彙力が劣るとしても簡単
なコミュニケーション運用能力は高くなったと評価できる。
 一方学習に対する態度面ではどうであろうか。近年グローバル化により、多
様で高い英語学力が要求されるようになってきた。その要求に応えるには相当
の学習量が必要とされる。昨年本校で全学年を対象に行った意識調査の中で、
学習量は非常に少ないのに対して英語で話してみたいという学生の要求度は非
常に高かった。又英語学習の必要性を多くの学生は認識していることも結果と
して得られた。それにも関わらず、その要求を満たすための努力や根気に対す
る意識は以前の学生と比較すると低い。努力はしないで他者から与えられるこ
とを期待している学生が多い。英語学力の低下の原因はどうもこのあたりにあ
りそうだ。我々教官は英語に対する自学自習の態度を学生にいかに身につけさ
せるかの研究と共に、学生の熱意を引き出す教材作成の研究を今後一層進める
必要があるのではないだろうか。


 5 高専生の英語学習への動機つけのための一方法

                       鹿児島高専 嵯峨原 昭次

 私は県立高校で4年間英語を教え、鹿児島高専での勤務は14年目になります。
高校在職中は目前に大学入試が控えているせいか、そんなに強い動機づけをし
なくても生徒自ら英語を勉強してくれました。ですから、教材や教授法に工夫
をこらしたりして生徒の英語力向上に取り組む毎日でした。
 高専に赴任して驚いたことは、学生が本当に英語の勉強をしないことでした。
最初は高校とのギャップに悩みました。どうすれば英語に興味を示してくれる
のか、それが最大の仕事でした。現在まで高専の学生が英語に興味を示し、学
習するような方策をいろいろ考えて実施してきました。他の先生方も同じよう
な取組をされているとは思いますが、皆さんから更に助言を頂こうと思い、今
回、そのいくつかを紹介します。
1)Pretest, Posttestの実施:定期考査ごとや、学期ごとに実施し、学生に
具体的な伸び具合を示して更なるやる気を喚起しています。語彙、文法、発音、
リスニング、読解力などいろいろな分野で行っています。
2)全ての活動を取り入れた評価方法:授業態度、単語テスト、5分間テスト、
復習テスト、発表、予習、定期試験、全てを100点の評価に入れています。授業
の1回目で評価方法は詳しく説明しています。普段の授業で手を抜かないように
してあります。
3)実践テストの実施:発音テスト、音読テスト、スピーチテストなどを行い、
実践的な活動も評価に入れています。
4)資格試験の活用(英語検定など):英語検定の合格を目標に据えたり、そ
の教材を授業の一部に組み込んだりしています。
5)グループ活動:グループで創作劇をさせたり、英文法のある箇所を一緒に
調べさせて、発表させています。
6)Presentationの練習:発表の主題を決めさせて、一定の時間英語で発表す
る練習をしています。
7)自由課題:小説、外国のパッケージの翻訳、新聞記事の翻訳、メールでの
自由作文、外国人へのインタビューなど、指示に従って報告書を提出した学生
には評価点を与えています。
8)英語よもやま話:普段から英語に関するおもしろい話題を仕入れるように
しています。書籍その他から情報を仕入れています。
9)発音クリニック:英語の発音を矯正したい学生のために、毎週1回、放課後
1時間クリニックを開いています。
10)補講:能力の高い学生が更に上のレベルをめざすための補講を毎週1回、
放課後1時間行い、赤点を取るような成績下位の学生に対しては、定期試験終了
後、次の試験へのしっかりとした取組を促すために補講を行っています。
11)ビデオ教材の活用:授業で扱う内容などに応じて適切なビデオ教材を探
して活用しています。
 以上思いつくままに上げてきましたが、全てがうまくいくとは限らず、学生
に裏切られることも多いですが、とにかく、学生が英語に興味を持ち、英語を
学習してくれて、実力をつけて卒業してくれるように、日夜励んでおります。
先生方の御教授、ご助言をいただければ幸いです。


高専英語科紹介

 航空高専英語科紹介

 東京には国立の東京高専,私立の育英高専,それに都立の工業高専(品川区
鮫州)と航空高専(荒川区南千住)の,都合4高専があります。「鳥人間コン
テスト」の常連入賞校としてご存知かもしれませんが,航空高専というユニー
クな校名を持つ本校は戦前の東京府立航空工業学校を母体とし,前身校を含め
ると今年で創立74年を迎えます。学科改組もあり,現在は航空工学科1学級,
機械工学科及び電子工学科各々2学級と3学科5クラス,学生数約1,000人から
なります。国立とは異なり学生は全員自宅通学です。
 英語科には5名の教員がいます。水江教官は英語教育を専門とし,ペーパー
には「無生物主語構文の指導について」などがあり,校務分掌は図書館長で野
球部顧問です。岡島教官は各々,英米文学・比較文学,「神西清と外国文学」,
教務主事補佐,航空工作部;竹内教官は,音声学・LL教育,「日本人学生の
ためのニュ-ジ-ランド生活・文化語彙」,久し振りにフリー,写真部;三浦
教官は英語教育,「Turn - taking Systems for Conversation and the
Cooperative Principle: How they can Apply to a Conversation」,4
年担任,ソフトテニス部;花岡教官は英語学・翻訳論,「An Exploratory
Study of Explicitation Strategies in News Translation」,2年担任,
テニス部顧問です。カナダ人ネイティブのリック・サットンさんは非常勤です
が,気さくなお人柄で学生に人気が有り,またインフォーマントや英文チェ
ッカーとして私たち英語教員だけでなく各工学科教員にも貴重な存在です。
 また,花岡・三浦先生は関東信越地区高専の教育方法改善プロジェクトの実
行委員と授業研究協力者として,「コミュニカティブな英語授業」について,
今年度末の報告取りまとめに向けて研究の集約をしています。サットンさんと
岡島は,今年で3年目となりますが,「カナダ人講師とLL教室で学ぶ初歩の
英会話」と題する公開講座を担当し,自画自賛で恐縮ですが,近隣住民に好評
を博しています。
 さて本校も,少子化,高学歴志向化などによる受験者数の減少とそれに伴う
入学者の低学力化に悩んでいます。校長のリーダーシップの下,複数回の体験
入学実施,全教官による中学校訪問などサバイバルに必死です。また英語の低
学力化には,実用英検や工業英検などの「単位認定制」などを導入し,過去問
補習などを行っていますが,なかなか難しい状況です。何かご助言などが有り
ましたらCOCETメーリングリストでお知らせ下さい。と書き終えた所に,
日本英語検定協会から「平成13年度実用英語技能検定奨励賞」受賞の知らせ
が届きました。(文責岡島)


若林先生を偲ぶ

 1 若林俊輔先生を偲んで
            東京高専  村井三千男

 ご存じのように、東京外国語大学名誉教授の若林俊輔先生が今年3月に逝去
されました。先生の早過ぎるご逝去は私たちにとってショックであるだけでな
く、わが国の英語教育学界にとって大きな損失であると思われます。先生はご
著書や講演等を通じて、大切なことを教えて下さり、日本の英語教育に多大な
影響を与えてこられました。それに関しましては、既に多くの方々が私よりは
るかにご存じでいらっしゃることと思います。個人的な話で大変恐縮ですが、
ここでは若林先生にいかに公私共々お世話になってきたかを述べさせて戴きた
く思います。
 先生に最初にお会いしましたのは、東京学芸大学大学院に入った時でした。
私は他大学の学部で英語以外の学問を専攻し、その後英語教師になることを目
指してその大学院を受験していたのでした。院1年時に先生の英語教育学演習
があり、多種多様な教育機器のあるマルティメディア教室でいろいろなことを
教わりまた。初めの頃の講義で「例えばある生徒が『私には夢がある』という
意味の英文として I have a dream.ではなく、『アイハヴアドリーム』と書い
たら何点と評価するか」と質問され、私たちの意見を聞かれたあとに「私なら
ば満点あげてもよいと思う」などと言われました。当時そういう考え方は思い
もよらなかったので驚きましたが、音声によるcommunicability を非常に重
視されていることがよくわかりました。その後も英語教育論や人生論において
独特の発想を展開されて我々学生を魅了しながら熱心に指導して下さいました。
先生がご自宅で毎月1回開かれる英語教育研究会にも参加させて戴き、英語教
育の理論や実践について指導して戴きました。先生はいつもご多忙でしたが、
奥様やお子様方をとても大切になさっていました。また家内と息子を連れて何
度かご自宅にお伺いしましたが、ご多忙でもいつも家中で歓待して下さいまし
た。それらのことは今でも大変貴重な思い出として心の中に残っております。
 先生は私が大学院を修了した年に東京外国語大学に移られたので、東京学芸
大学の後輩たちから「村井さんは若林先生の指導を受けられてラッキーでした
ね」とよく言われました。最初に勤めた東京都立高等学校は「英語の指導以前」
と思われる程の教育困難校で毎日のように問題が起き、大変悩んでおりました。
いつも先生は親身になって相談にのって下さいました。そして「授業外で生徒
との信頼関係を築くことも大切だが、教師は授業を通して勝負するのだといつ
も考えておくように」と忠告して下さいました。そのような先生のいろいろな
アドバイスが何度も私を支えて下さいました。
 高校教師になりたてに、国際文化振興会編集のEVERYONEという英語教育研
究雑誌に原稿を書くようにと仰って下さいました。それが私の原稿が掲載され
た最初の出版物でしたので、本当に感謝感激でした。三省堂の参考書『わかる
英語1』、高校教科書の教師用指導書、辞書の『ヴィスタ英和辞典』などを担
当させて戴き、語学教育研究所の研究員にも推薦して戴きました。そのように
先生には大変お世話になったのですが、(言い訳がましくなりますが)多忙の
ため最近は日本外国語教育改善協議会でお会いする程度になり、義理を欠いて
大変恐縮している次第です。昨年末より御身体の調子を崩されていたことも存
じませんでしたので、今年3月の訃報に愕然としましたし、また最後の最後ま
で失礼してしまい本当に申し訳なく思っています。 
 先生は過激な発言をなさることがあり、誤解されてしまうこともあったよう
ですが、「話をわかりやすくするためには極端な言い方をした方がよい」「1
人の敵ができたら、それと同時に2人の味方ができたと思ってよい」などと仰
っていたのが印象的でした。確かに厳しい先生でしたが、それとともに大変温
かい先生でいらっしゃいました。先生の早過ぎるご逝去に胸を痛めている方々
がこんなにも多いのは、先生が大胆さと繊細さの両面を兼ね備え大変温かい方
でいらっしゃることがよく知られているからだと思います。
 若林俊輔先生のご冥福を心より祈っております。


 2 若林先生を偲ぶ
                        大分高専 穴井 孝義

 私は元々教師にだけはなりたくなかった。一生暗い?部屋で本と睨めっこを
している姿しか想像できなかった私には「一度しかない人生をそんな暗い部屋
で過ごして、一体教師のどこがいいんだ」という思いしかなかった。しかし、
自らが教師になりたかった母は自分が果たせなかった夢を子どもに託そうと、
私に「大きくなったら学校の先生になりなさいよ」と口癖のように言ってきた。

 そんな母に反発しながらも、大学3年の春、ふと「取り敢えず教員免許だけ
でも取っておけば、おふくろは安心して当分は口うるさく言わないだろう」と
いう、実にイイ加減で情ケナイ思いがよぎり、そのまま教職課程を受講してし
まった。そして週1コマの「英語教育学」の講義を受け持って現れたのが、何
とも眼光の鋭い、髪の毛が鶏冠のように突っ立っている、恐そうな顔つきの中
年男だった。若林先生との出会いである。開口一番、彼の口から出てきた言葉
:「君たちは可哀想だねぇ」何ヲ言ッテルンダロウ、コノ人ハ?「多分、君た
ちは中学で初めて英語を習った時に『なぜ英語は主語のすぐ後ろに動詞がくる
んだろう?』『なぜクエスチョンマークはこんな形をしてるんだろう?』とい
ったようないろんな疑問を持ったはずなんだよ。でも、『英語は覚えたら勝ち
!』とか何とか先生に言われたんだろうなぁ。君たちはそんな疑問を捨てて、
暗記の勝負に勝ってここまで来たんだろうねぇ。可哀想だねぇ…」変ナコトヲ
言ウナァ、コノオッサン。

 2週目:「人間の肉体を扱うのが医者なら、人間の精神を扱うのは教師なん
だ。だから、教師になるというのはそれほど責任が重いことなんだよ」「相手
が機械だったら、同じ刺激を与えても同じ反応しか返ってこないんだよ。とこ
ろが、相手が人間だったら、同じ刺激を与えても違った反応が返ってくるもん
だから、教師という仕事は難しいんだよねぇ。でもねぇ、それだけにとっても
面白いんだよなぁ」

 3週目:「いいかい、こう教えれば分かるだろう、というのは駄目なんだよ。
所詮、教える側からしかものを見てないんだから。こう学べば分かるだろう、
という目線を持たなきゃ」「先生、先生って言うけどねぇ、先生は生徒がいて
初めて先生なんだから、生徒を抜きにしたら、先生でも何でもネェンダヨ!」

 前期が終わる頃には「俺は絶対教師になるんだ!」と心の中で叫んでいる自
分がいた。180度の方向転換である。先生は「本と教師」との関係しか見えてな
かった私の目線を「生徒と教師」との関係にも向かわし、かつて私が抱いてい
たあの味気ない教師像をものの見事に打ち砕いたのだ。教師になってから若林
邸でこの話をした時に、うっすらと笑みを浮かべながら先生がこうおっしゃっ
た:「人生ってのはどこで誰に出会うかでコロッと変わってしまうんだよなぁ」
先生もまた故小川芳男先生との出会いで人生がコロッと変わったのだった。

 今年で教師歴20年になる。これまで辛いことも嫌なことも悲しいことも会っ
た。でも、未だ一度たりとも「あーぁ、教師になんかならなきゃ良かった」と
後悔したことがない、とそう言える自分が嬉しくてたまらない。若林先生との
出会いに感謝したい。その若林先生が今年の3月2日に亡くなった。あまりに
も早い、早すぎる旅立ちだった。「英語教育界のご意見番」でずっといて欲し
かった。
 まだまだ相談したいことも山ほどあったのに…。合掌。


 3 あゝ俊輔さん!
                    神戸松蔭女子学院大 青木 庸效

 正義と行動の俊輔さん。昭和49年三省堂が倒産したとき、Total Englishの
翌年度からの採択は決まっていた。その供給のため別会社が作られはじめたが、
これでは日本の中学校英語教科書は事実上3種類となって、国定教科書に近づ
くと言い出したは俊輔さんである。こうして私たち二人は Totalから離れ、新
しく〈New Crown〉を興すことになった。その頃を話すと、昭和53年度の初
版がいちばん良かったね、というのが彼の口癖であった。
 やさしい俊輔さん。出合うと大きな声は決してあげない。背中の上部を後か
らそっと押す人があると、それは必ず彼であった。そして人前では決して「く
ん」付けで呼ぶことはなかった。「どう、近頃は?」「いろいろな事がありす
ぎて困るね、ふんふん・・・」
 厳しい俊輔さん。「だから、進んでコミュニケーションをしようとする人を
育てるには、正しさよりもまず発話させる勇気」と研究発表のひとが言った。
フロアから声が上がって「それでは学校教育は不要。駅前で充分!」彼であっ
た。この厳しい熱意は御自身に対してでもあり、題材の重要さを広めるため、
公務以外の都合のつく時間を実際の授業実演のために日本中を走り廻った。
 これらすべてと他のあらゆる俊輔さんは彼の「英語教育ジャーナル」にもっ
ともよく現れているであろう。特異な企画と "Shunsuke Talks" など有益な
記事の二年半を経て82年9月に「緞帳をおろす」を書いたときはさみしかっ
たであろう。それ故に、外語大の退官記念のための文集は再び「英語教育ジャ
ーナル」であった。
 俊輔さん! 安らかに。
       「英語教育史学会例会会報から青木先生の許可を得て転載」


 4 「コセットの歩み」から

平成8(1996)年
 9月6~7日熱海MOA瑞雲会館で第20回総会・研究大会。次期会長に松林
嘉煕(鈴鹿)、副会長に村井三千男(東京)、深田桃代(豊田)を選出。論文掲載費
10,OOO円に値上げ。「コセット20年の歩み」を発表。講演若林俊輔東京外国
語大学名誉教授・都留文科大学教授「これからの英語教育-その始点と終点」。
MOA美術館見学。研究発表14件18名。情報交換会。20周年記念祝賀懇親会。
参加79名。

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コセット事務局から

 1 3月までのこと
 『研究論集21号』を発行いたしました。関係の皆様のご協力に感謝いたしま
す。また、コセットの会員が関係した科研費の報告書も発行されました。
 会員の一人、沼津高専の森野衛先生が亡くなられました。心よりご冥福をお
祈りいたします。コセットからは弔電をお送りいたしました。(合掌)

 2 平成14年度コセット東京大会について
 平成14年度の総会・研究大会を以下のように開催いたします。今から計画を
され、ぜひご参加ください。大会要綱を6月中旬までにお送りいたします。
 日時:8月24(土)、25(日)
会場:国立オリンピック記念青少年総合センター 5F
東京都渋谷区代々木 phone:03-3467-7201
http://www.nyc.go.jp/index.html をご覧になると、交通案内、施設の案内等
があります。
 
 内容:総会のほかに特別講演、研究発表など。
 特別講演 上智大学教授 吉田研作先生、タイトルは、
Need for EFL Standards for Teaching English in Japan。
 研究発表は14件で、その内容は以下のとおりです。コンピュータ(CALL)関
係 4件、TOEIC関係、ベーシックイングリッシュ関連、文法指導、習熟度別授業、
Audio Lingual Approachに関連して、など。
 フォーラムでは、昨年度の科研グループの報告書にまつわること(高専の英
語教育全般)等を討議予定。
 業者展示(予定):工業英語協会、アルク、セイド―、成美堂、カシオ計算
機、TOEIC事務局、東京書籍他
 8月24日にオリンピック記念青少年総合センターに何室か部屋を予約してあり
ます。1泊4,300円程度です。大会申し込みと一緒に受付予定。要綱でご案内い
たします。

 3 コセットのロゴ(マーク)を募集中です。研究論集21号の135ページの要
項をごらんの上、多くの応募をお願いします。

 8月の東京大会でお会いしましょう。
                      事務局: 長野高専 小澤志朗
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